文春オンライン

「なぶり者にされた娘の気持を考えると泣かずにはいられません」花嫁修業中の妹まで…宗教団体「死のう団」への特高警察の“むごすぎる拷問”

『テロルの昭和史』#2

2024/01/20
note

特高警察に性的辱めを受けた女性も

「殉教千里行」には女性も含まれていた。たとえば女子医専の学生だったり、家事手伝いの女性であったり、5、6人いたようである。その女性たちは釈放されると、ほとんどが錯乱状態になっていたという。

 彼女たちは真っ裸にされて辱めを受けたり、性器に悪戯をされていたというのだ。

 女子医専の学生の母親は、特高警察を訴えている。「カナトク」の拷問によって、娘が人生を棒に振ることになったというのであった。母親が訴えた訴状に添付した手記には、次のようなことが書かれている。

ADVERTISEMENT

「〈目を離すと〉物を壊したり、茶瓶をがりがり食べてしまったり、ですから家中夜昼なし、惨状は目も当てられぬ有様で御座います。然し、変わり果てた娘の姿を見ますと"おお、尤(もっと)もだ、尤もだ。赤裸にされてあんなひどい目に逢ったのだもの、気が狂うのが当り前だ"と存じました。"誰も居ないのだからね、母さんだけなのだからね"と幾ら言っても、ズロースのはき換えをさせません。足を堅く重ねて仕舞います。(略)それをまあよくも赤裸にして、大勢たかって、なぶりものにして呉れたと思い、なぶり者にされた娘の気持を考えますと、如何に歯を喰いしばって堪えても、泣かずには居られません」

 この女性の妹、そして弟も千里行に参加して逮捕され、拷問を受けている。花嫁修業中の妹は拷問が元で、やはり精神のバランスを崩している。

 弟は東京府立八中の4年生であったが、拷問で身体中が傷だらけであった。特高警察は、この学生はテロリストだと学校に言いふらし、退学を求めた。しかし成績が常に三番以内であるのを惜しんで、校長や教師たちが庇い続けた。日蓮宗の信者としての行動に確かに誤解を生む部分はあったにせよ、テロなどと無縁の青年たちが、特高警察にいいように弄ばれたのであった。

テロルの昭和史 (講談社現代新書)

テロルの昭和史 (講談社現代新書)

保阪 正康

講談社

2023年8月23日 発売

「なぶり者にされた娘の気持を考えると泣かずにはいられません」花嫁修業中の妹まで…宗教団体「死のう団」への特高警察の“むごすぎる拷問”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー