ベッドを捨てたワケ
――ベッドまで捨ててしまったんですね(笑)。
おしの これは私の極端な心の表れだったと思うのですが、過去の自分が眠っていたベッドで眠りにつきたくないと思ったんです(笑)。なので気づいたら処分していました。
あと生活面においてもベッドがあると、つい寝転がってしまえるのが嫌だったので、敷布団にして起きたらすぐに畳んで寝られなくなるようにしました。まず人として今の自分に何が必要なのかということをずっと模索していました。今思えばあの時間は自分の人生にとって大きなターニングポイントにもなったと思います。
「言葉を自分の手で書いてみたい」という思い
――本格的に書道を始めたのも「無」の時期だったとか。
おしの そうですね。書道も無心でやるものなので、その頃の自分を救ってくれたものだと思います。書道は幼い頃から身近な存在ではあったんです。祖母が書道の師範だったので祖母の家に行ったときに教わったり、習い事の一つとして書道教室にも通っていました。祖母は家に自分の作品や格言や詩などをたくさん飾っていたので、そういうのを見て育ってきました。
でも子供の頃の私にとっては書道って、お勉強と一緒のような感じで正直そんなに楽しくなかったんです(笑)。正座で足も痺れるし。だから今までずっと書道を続けてきたというわけでないですけれど、このタイミングでもう一度始めてみようと思ったのは「言葉を自分の手で書いてみたい」と思ったからでした。
元々言葉の意味を改めて調べたり、詩や歌詞なども好きで、よく読んでいたんです。そのうちに、ちゃんと文字にして書いてみたいと思って、パッと浮かんだのが書道だったんですよね。それですぐに家の近くにあった書道教室に通い始めたら本当に楽しくて驚きました。私、行動力はあるほうなんです(笑)。
作品の「動き」にこだわりたい
――作品の書体や雰囲気はどのように考えて書くのでしょうか?
おしの 行書と隷書の師範は取得しているんですけれど、習ってきたものとは全く関係なく書いてます。言葉によって雰囲気は変わりますね。例えば「日日是好日」なんかはほっこり可愛らしい書体で書きました。
全体を通して大切にしていることは動きがあるかということです。書の作品は静止した世界ですが、それでも動きを感じる時があるんです。動きが見えると作品に血が通ってるような、生命力を感じる。生きている作品には「色気」があると思っています。そんな作品にこだわって生み出し続けたいです。