栃木県宇都宮市のLRT(ライトレールトランジット)、通称「ライトライン」が2023年8月の開業以来、好調な業績を重ねている。黄色い車体と統一されたデザイン、先端技術を採用したライトラインは、従来の路面電車のイメージを変え、都市交通の新たなかたちをみせてくれる。そんなライトラインの誕生と未来について、宇都宮ライトレール株式会社、経営企画部経営企画課の宮崎拓氏に聞いた。
JR宇都宮駅と東武宇都宮駅が離れていて東西方向は鉄道がない
杉山 今日、こちら(宇都宮ライトレール本社)に伺うために、宇都宮駅東口停留場から平石停留場まで乗ってきました。平日の日中ですけど50人ぐらいの方が宇都宮駅東口から乗られて、席が全部埋まって座れないなって(笑)。実は10月にも葛飾区の新金線を実現する市民の会のツアーで往復しまして、あのときは日曜日の昼なのに満員でした。
宮崎 我々も反対の声に晒されながらずっと進めてきた事業でもあったので、成功を信じてやってきましたが不安もあったんです。本当に皆さんに乗っていただいて、しかも生活の足として活用していただいている。やってよかったと思っています。
杉山 会社名は「宇都宮ライトレール」ですが、愛称は「ライトライン」に統一されたそうですね。既存の路面電車があったわけではなく、全くの新規開業であることも話題になりました。ライトラインはどんな経緯で誕生したのでしょうか。
宮崎 宇都宮市は北関東、栃木県、関東平野の中心部で、移動手段は自動車交通がほとんどです。モータリゼーションが普及すれば、道路ネットワークの構築が喫緊の課題になってきます。もともと宇都宮市はクルマで生活するにはかなり便利なんです。
杉山 JR宇都宮駅が中心部にあって、郊外部にぐるっと環状線ができていますね。
宮崎 外側に大きな環状線が1つあって、実はその内側にも2つ、環状でぐるっと回れるような道路があります。JR宇都宮駅の南北にアンダーパスがあって、大きな環状線の方は鉄道を越える立体交差です。これらの環状道路と12本の放射状道路があります。鉄道駅の周りに街が栄えていきました。その後、クルマが生活手段になって、旧市街地から郊外へ、スプロール化現象といいますが、住民の分布が広がっていきました。
杉山 ドーナツ化現象とは違って、宇都宮は中心部が栄えたまま、郊外も広がった。
宮崎 鉄道はJR東北本線(宇都宮線)と東武鉄道の宇都宮線があります。他の地域の方からは驚かれるんですけれども、JR宇都宮駅と東武宇都宮駅がかなり離れています。東西方向は鉄道がありません。
杉山 なるほど、東西交通の軸がない……。
宮崎 そこで路線バスが発達していきました。いまや路線バスも系統が多くてものすごい数が走っているんです。とくに西側が多い。JR宇都宮駅から東武宇都宮駅に通じる大通りは、路線バスのほかに大型店舗や学校の送迎バスもあって、上下合わせて1日に2000本以上もバス便があります。
杉山 6時から22時までの16時間として、1時間あたり125本!! これは平均だから、通勤通学時間はもっと多いでしょうね。
宮崎 地形的な特徴として、JR宇都宮駅発着の在来線が全て地平面ですから、東西方向をバスで移動しようとすると、ほとんどの路線バスはJR宇都宮駅まで、そこから駅2階の自由通路を横断して、またバスに乗る形になります。それでは不便なので、JR宇都宮駅を経由して線路をくぐって東西を直通する路線もあります。結果として西側のバス路線網は充実しています。
杉山 東西直通便もすこしあるそうですけど、駅で乗り換える方が早そうですね。
宮崎 東側は郊外に清原工業団地があって、その先、お隣の自治体の芳賀町にも芳賀・高根沢工業団地という大きな工業団地があります。JR宇都宮駅から工業団地群にクルマやバスで行くためには、鬼怒川を越えなくちゃいけない。