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なぜ75年ぶりの新規路面電車が宇都宮に? 街の通勤と観光を劇的に変えた“黒と黄色のかわいいやつ”【宇都宮ライトライン乗車レポ】

なぜ75年ぶりの新規路面電車が宇都宮に? 街の通勤と観光を劇的に変えた“黒と黄色のかわいいやつ”【宇都宮ライトライン乗車レポ】

昼、夜、朝に終点まで往復してみた

2024/02/04
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 2023年8月、宇都宮市に路面電車が新規開業した。会社名は「宇都宮ライトレール」、愛称は「ライトライン」だ。これは都市交通分野では革命的なことだ。なにしろ、道路に新規で軌道を建設した路線は、1948年の富山県高岡市以来75年ぶりだからだ。愛称のライトは、雷が多い宇都宮市の愛称「雷都」をかけている。

宇都宮ライトラインの車両「HU300形」 写真は筆者撮影

 かつて都市交通の主役だった路面電車は、自動車交通の妨げとされ、地下鉄やバス路線に取って代わるなどで衰退の一途だった。潮目が変わったのは1997年に導入された超低床連結車両の登場だ。乗降しやすくバリアフリーに配慮され、2両以上連結しているためバスより定員が多い。ヨーロッパの路面電車にならって熊本、岡山、広島などで超低床車両が走り出した。

 これ以降、「ライトレール(LRT)」はかなり知名度を上げている。「デザインが斬新でヨーロッパの街にいそうなオシャレな電車」で、「床が低いから乗り降りがラク」だと利用者にも評判が良い。細かいことを言うと、路面電車など小規模な路線を「ライトレールトランジット(LRT)」といって、そこを走る低床車両は「ライトレールビークル(LRV)」だ。全国で導入が進んでいる。つまり新しい路面電車である。

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 極めつけは2006年に開業した富山ライトレールだった。ローカル線だったJR富山港線を譲り受けて、全線を超低床車両で統一し、駅も車両に合わせて改築した。運行本数を増やし利用者も増えて、都市交通のお手本となった。全国各地からライトレール導入のための視察団が訪れたけれども、新規路線開業に至らなかったようだ。なお、この路線は現在、富山地方鉄道に吸収されて、市内線と直通運転を実施している。

宇都宮駅東口停留場で発車を待つ

蜂をイラスト化したような顔でかわいい。ゆるキャラになりそうだ

 その富山以来17年ぶりに誕生したライトレールが「宇都宮ライトレール」で、構想段階から鉄道ファンや都市交通に関心のある人に注目されていた。しかし、宇都宮市以外では知られていないらしい。私の周りの人々は、宇都宮といえば相変わらず「餃子の街」だ。「宇都宮で路面電車に乗ってきたよ」というと「路面電車があるんだね」と言われてしまう。だから今日はたっぷりとライトラインをご紹介したい。

 私は日本全国の鉄道路線にすべて乗るという趣味があり、新規開業路線があればもちろん乗りたいわけだ。そんな私の最初の乗車は2023年10月29日、開業から2カ月後だ。乗りに行く機会を探していたら、葛飾区の貨物線(新金線)をLRTにしようとがんばっている市民グループがツアーを企画していた。両国から貸し切り列車で貨物線を経由しつつ宇都宮に行くという。ライトレールがどんな乗りものなのか観に行こうという趣旨だ。

 日曜日の昼過ぎに宇都宮駅に到着し、改札口を出て東口へ。高架歩道で線路と道路を渡ると、眼下にライトラインの「宇都宮駅東口」停留場が見える。低床ホーム1面の両側に軌道があり、3両編成のLRVが発車を待っている。黒をベースに黄色いアクセントラインを持ち、稲妻のイメージだという。勇ましいけれど、車体は丸みのある流線型で愛嬌がある。正面から見ると蜂をイラスト化したような顔でかわいい。ゆるキャラになりそうだ。