1960年(80分)/ハピネット/2750円(税込)

 近年は意識の高い映画人が多くなり、作品を通して現代の問題点を訴えかけようというのが、かなり目立つようになってきた。もちろん、そうした意識を持つことも、そうした作品自体も尊いものであることは大前提としてある。

 ただ、そうした作品ばかりになっては、どうも息苦しくもなる。映画の効能として、現実逃避というのも大きい。せめて映画を観ている間くらいは、つらい現実を忘れることができる――。それもまた、映画の重要な役割だ。

 そんな時は旧作、中でも新東宝の映画はありがたい。徹底して現実離れした娯楽を作り続けてくれたので、その作品を観ていると心が和むのだ。

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 今回取り上げる『花嫁吸血魔』も、そんな一本だ。タイトルからして意識が低い感が強いが、さすがは新東宝、我が期待を裏切らない。

 冒頭から最高だ。蝙蝠が飛び交う薄暗い洞窟、その奥に設けられた怪しい神殿、そこで謎の呪術に励む不気味な老婆、それにかいがいしく仕える獣人。不穏さに満ちていて、早くもトリップできる。

 といっても、前半はさほど珍しい話ではない。主人公はバレエ学校に通いながら女優を目指す藤子(池内淳子)。彼女の清楚な美貌に男たちはメロメロになり、そのために同級生の女性たちからは激しい嫉妬の的になっていた。

 やがて、藤子は映画会社にスカウトされ、ヒロイン役に抜擢される。だが、その座はもともと同級生のリーダー格の喜代子(天草博子)に用意されていたものだった。

 恋人まで藤子になびいたことで、喜代子の嫉妬は憎悪へ。同級生たちと謀って藤子を崖から突き落とした。顔面に重傷を負った藤子は女優の道を断たれ母親は自殺してしまう。

 ここから、全く予想できない展開が待ち受ける。というのも、藤子に力を貸すのが、あの冒頭の老婆なのだ。実は老婆は藤子の曾祖母で陰陽師でもあった。老婆は儀式を決行し、藤子に秘術をほどこす。

 そして、力を得た藤子による復讐が始まる。これがまた、尋常な描かれ方ではないのだ。

 老婆の秘法により、藤子は全身毛むくじゃらの吸血獣人へと変貌してしまった。美しい藤子が見る見るうちに変わり果てていく様は強烈だ。

 終盤は、そんな吸血獣人と化した藤子による同級生たちへの襲撃が描かれる。暗闇の中を突如として現われ、暴れまくり、鋭い爪と牙で次々と仇を血に染めていく獣人藤子。その雄姿は、まるで変身ヒーローだ。彼女の活躍を眺めていると、いつの間にか厭な現実など吹っ飛んでしまう。

 つらい時は新東宝――。この言葉、ぜひとも胸に刻んでおいてほしい。