リーヴスは『モールス』に際しフレイザーを起用した理由として、『ブライト・スター』の自然光撮影に感銘を受けたためと話しており、本作のヴィルヌーヴもまたフレイザーについて「彼は自然を味方にして確実に、効果的に利用することができる」と賛辞を贈る。自然光を巧みに操り、自然を模した現実味のある光を再現できるのが彼だと。
フレイザーは本作において、太陽の動きを研究し、写真測量したロケ地の情報をソフトウェアに取り込むなどして、1日の異なる時間帯に光がどう射すかを緻密に割りだしたという。
そして自然光の効果を最大限に引きだしながら、前作では行わなかったような実験的な撮影法にも挑戦した。たとえば冒頭のシーンでは、日食による照度の変化を表現するため赤外線フィルターで可視光を除去し、フレイザーいわく「不気味な赤橙色」で風景を染めあげている。
もちろん自然光だけでなく、照明機材による光源の再現も行われているが、これほどさまざまな陽光の美しさを一度に目にする機会はめったにない。
砂虫のあのシーンも基本的に実際の砂丘で撮影
自然を生かし、視覚効果にはなるべく頼らず、カメラで実物を撮影すること。
それが本作を含む、ヴィルヌーヴの作品に共通した基本理念だ。
そのため『デューン』シリーズを通じた最大のスペクタクルである砂虫(サンドワーム)乗りのシーンも、基本的には実際の砂丘で撮影されている。
砂虫とはアラキスに生息する無脊椎動物で、なかには全長400メートルに達する個体もあり、砂中を高速で移動しては人を丸呑みする。フレメンにとっては移動手段でもあり、よそ者のポールがそれを乗りこなすことは、フレメンたちとともに生きていく証として重要だ。ストーリーの上でも、ポールの新たな1歩を示す大事な場面である。
しかしそれだけ巨大な生物を実物大で作り、動かしながら撮影することはさすがに難しい。