『訂正する力』(東浩紀 著)朝日新書

 現代思想の気鋭の論客として、20代前半で鮮烈なデビューを飾った著者。それから約30年。思想の領域だけに留まらず、サブカルチャーや情報社会などに対象を広げながら旺盛な言論活動を継続。さらには小説を書き、会社経営に乗り出し、それぞれ着実に成果を上げてきた。そうした一連の経験を思想的に捉えなおし、今の日本社会に必要な理念として取り出したのが「訂正」。過去を「修正」ではなく「再解釈」し、物事を前に進めるために未来へと繋ぐ。そんな「訂正」のダイナミズムを、具体的な事例を引きつつ平易に語った新書が売れている。

「アカデミズム、文芸、あるいはサブカルチャー。各々の領域から著者には大きな期待が寄せられて来ました。しかし著者の思考には、狭い領域からの求めに応えるだけではこぼれてしまうものがある。そもそも著者の専門である哲学が、本来は生きることの中で実践されるものですからね。そこを重視する著者の姿勢は、実は昔から大きく変わっていません。年を経て一番シンプルにまとまったのが本書だと思います」(担当編集者の池谷真吾さん)

 訂正する力は「考える力」でもある。考えることを軽視する社会への著者の危機感が、幅広い読者に響いているようだ。特に、日々「訂正」を繰り返さざるを得ない立場である経営者からの熱い感想も多いのだとか。

2023年10月発売。初版1万7000部。現在7刷7万800部(電子含む)