すると突然、窓の外からパパパパ~ンと“ゼクシィ〞のラッパの音が。鳴り渡る鐘と結婚行進曲に「げ!」と思ってカーテンを開けホテルの中庭を覗くと、チャペルウエディングがおっぱじまってるではありませんか。2年の同棲生活ですっかり心が荒んだわたしには、シルバーグレーのタキシードを着てみんなから祝福されている新郎が、モンスターに見えました。家事負担を3倍増にする、男性という名のモンスターに……。
〈作家が原稿執筆のためホテルや旅館に押し込められることを「缶詰」といいますが、わたしは自主的に(自腹で)缶詰になってました。同棲時代は荻窪に住んでいたので、定宿はいまはなき吉祥寺第一ホテル、この回で泊まったのは立川にあるホテル。20代ずっと暇だったのに、作家デビューしていきなり忙しくなり、てんてこ舞いの日々でした〉
引っ越し事件
結婚式の準(?)主役である新郎を、よりにもよって「モンスター」と言い放つほど、男性を見る目が歪んでしまったことについて語らせてください。あれはそう、同棲直前、部屋探しをしていた日々に遡ります。
飼い猫を抱えての部屋探しは常に前途多難。アニマルに不寛容な世知辛い住宅事情は周知の通りですが、築年数の古い部屋なんかは交渉次第で入居OKのところも結構あり、これまでガチンコ戦法でボロアパートを渡り歩いてきました。同棲ってことで家賃の予算も上ったし、いい感じの部屋を探すぞ~とウキウキ気分で彼氏に「不動産屋いつ行く?」と聞くも、仕事が忙しいとかで、まず予定が立ちません。この時点で「彼氏と一緒に不動産屋巡りをして、最高の物件を見つける」という淡い夢はぶち壊しになり、不動産屋に行けない代わりに彼氏から、めぼしい物件の検索結果がメールで送られてきました。
メールに貼り付けられた大量のURL。それらはたしかにどれも洒落ていていい感じです。が、その一件一件にペット可にならないか交渉するのはこのわたし。そして彼氏提案の部屋はすべて、ペット不可との返答でした。
長くなるので詳細を端折ると、ネットで検索し直して部屋を見つけたのもわたし、内見を申し込んだのもわたし、内見行くぞと彼氏の尻を叩いたのもわたし、引っ越しの見積もりで営業の人と熾烈な価格交渉をしたのもわたし、ガス水道などの手配をしたのもわたし、引っ越し当日、業者のおにいさんたちを相手にあれこれ指示を出したのもわたし、わたしわたしわたし……。とにかく引っ越しに関してのなにもかもを、いつの間にかわたしがやっていました。
そのころは文学的ニートという名の暇人だったので、自分が稼働するのは当然と思っていたものの、やっぱり腑に落ちません。なんかすごく嫌だこの展開! と、モヤモヤしたわだかまりができました。