これでも同棲前に、ケンカの火種になるような家事の負担を最新家電で取り除こうと、いまどきのカップルらしいことを考えていました。掃除はルンバにお任せしようとか、食洗機を買おうとか。しかし結局、そのどれも買わずに今に至ります。理由は単純、キッチンも部屋も狭いから。そんなわけで皿洗いは、100年前と同じ手動で行われることが嫌々ながら決定したのでした。
ここでちょっと話が逸れますが、わたしと彼氏が支払う家賃は同額、完全に折半です。つい去年までは小説家の卵で収入がなかったといっても、彼氏が“糟糠の妻”よろしくわたしを金銭的に支えていたわけではありません。あまり大きな声では言いたくないのですが、わたしは両親のスネをしつこくかじりつづけて生きていました。
家賃・食費・光熱費は彼氏と同じ金額を払うことだし、家事の分担も対等なのは至極当然。あらかじめ話し合って彼氏も「やるやる」と言っていたにもかかわらず、いざ蓋を開けてみると、彼氏の家事稼働率が5割に達したことは数えるほどしかありません。自分の中に“尽くす女”要素は皆無、なのに「家事は女がやるもの」という悪しき刷り込みのせいで、流しに汚れた皿が山積みになっていると軽い罪悪感が頭をもたげ、渋々、わたしは食器洗いスポンジを握るのであった。
一方、彼氏はごはんを食べたあと、床で涅槃のポーズをとりながらテレビタイムに突入していて、なんか笑い声とか立てています。わたしが皿を洗いながら背中から轟々と放つ殺気に気づきもせず、「アハハハ~」といい気なもんです。その瞬間、わたしの心に湧いた感情を、憎しみと言わずなんと言おうか。皿洗いが終わると、彼氏は一応申し訳程度の礼を言いますが、金でももらわなきゃこのモヤモヤは収まりがつきません。イラつきのあまり、ヤンキーのようにメンチを切るわたし。きょとん顔の彼氏。部屋中の空気がピリつきます。荒んだ日々の幕開けです。
〈家賃が折半なだけでなく、マンションの契約書も連名で作ってました。「絶対そうした方がいい」と、母から助言を受けて。たしかに連名契約じゃないと、一方が居候ってことになってしまう。それは危険だ。
単行本のタイトルが『皿洗いするの、どっち?』だったので言い出しづらかったのですが、このあと引っ越したマンションには食洗機が付いていて、皿洗いから解放されました。日本の食洗機の普及率は、2022年の段階でも約35%だそう。かつて洗濯機など主婦の手間を軽減させる画期的な家電が登場したとき、「女が働かなくなる」と言って買い渋る男性がいたそうですが、皿洗いに関しては今もその認識なのかも〉
お料理問題
はっきり言って料理が苦手です。下手です。ただ単に下手なんじゃなくて、料理センスというものがまるでありません。センスどころか作る以前の問題が多すぎて、どこから書いていいかわからず途方に暮れています。