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 そんな会話を交わし、がっかりして別の商社を回って売り込んだが、答えは同じだった。最後に学校の先輩がいる大手商社でこんな説明を受けた。

「言いにくいことですが、大商社はそんなものは扱いません。ものすごく売れているというなら別ですが、これから売れるか売れないか分からないようなものはやりません。どの商社に行こうと無駄な話ですよ」

 宣政はあくまで粘り腰だ。

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「いや、これはすごいんですよ。何とか扱っていただけませんか」

 やり取りをしているうちに、根負けした相手が「それほど熱心に言われるなら」と、大阪の丼池筋、神戸の三宮、元町界隈のインド商社やアフリカへの商品を扱う小さな商社を紹介してくれた。

「カネのないときに、またまた出て行かないかんのか」。そう思いながら歩いた。そして最後に、ダイコクヤという3人ほどで営んでいる貿易商社に立ち寄った。50がらみの実直そうな人が出てきて、

「あんたが行くっていうんだったら、協力するわ」

「えーっ」と声が出た。

「僕はモノは作れるけど、商社みたいなことはできん。売り方もしらんし、だいたい英語ができんわ」

 初対面の人ともすぐに打ち解け、友達のように言葉を交わすことができるのが宣政の取り柄である。しばらく、「できん」「行け」と言い合っているうちに、彼は熱意を測るかのように、宣政の眼を見つめた。

「あんたが行かなあかん。こんだけ熱心なら、うまくいくかもしれんわ。あんたが行けば応援をするよ」

「そうか、自分で売り込むということか、英語もできんのに」とつぶやきながら、名古屋に帰った。夜、ベッドに寝転んで再び考えに落ちた。

――アフリカに行かなんだら、借金返済まで75年、孫子の代までかかる。佳美の治療費も出せん。しかし、行ってひょっとして売れたら、逆転ホームランだ。成功の確率は低いが、やってみるしかない。

初対面の外国人に会話を挑んで実践

 けれども、英語が話せない現実に変わりはなかった。学校に行く時間もない。こんなときに尾張人特有の気質が出る。独立心が強く、しぶとくてガメつい。目的のためなら恰好を気にせず、ひたすら直進する。

 よし、基本的な実践英語だけ覚えていこう、と思い立って、宣政は土、日になると、ホテルナゴヤキャッスルに通った。そこは名古屋城を一望する豪華ホテルで、トヨタ自動車やデンソーを始め、愛知の大企業を訪れる外国人が泊まっていた。商談の合間にロビーやティーラウンジでくつろぐ外国人に会話を挑むのである。