「日立製作所の町」と「海が見える絶景の駅」
いったいどうしてこういう町が形作られたのだろうか。定かなことはわからないが、平和通りといういまの目抜き通りは戦災復興で生まれた新しいメインストリート。むしろ、駅前から工場の脇を抜けて国道6号に通じる銀座通りこそが、本来のメインストリートだったようだ。
そして、工場で働く人々は、必ずしも駅から列車に乗って通勤していたわけではない。電車をつかう距離にベッドタウンがあるような地域でもないから、近くの社宅かなにかにでも住んでいたのだろう。となれば、必然的に駅と工場を行き来する機会は少なくなってゆく。これが、日立の市街地の特殊性を形作った要因のひとつかもしれない。
いずれにしても、こうした町の形も、そして駅前広場に鎮座するタービンのオブジェも。日立という町は、日立製作所という一企業の存在感があまりに大きい町である。
駅が町づくりの要になるわけでもなく、また昔ながらの宿場町がそれを担うわけもなく、町の中心は日立の工場。まるで日立イズ日立。そんなことを思いながら、だけど看板は三菱だしややこしいなと考えながら、駅に戻った。
すると、やはり日立駅は海が見える絶景の駅だ。天気が良い日に訪れて良かった。2011年にこの駅舎ができて以来、観光気分で訪れる人も少なくないそうだ。そりゃあ、これだけのガラス張り、眼下に太平洋ですからね。海の見える日立駅は、これからの日立の中心になるだけの存在感を放っている。
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