阿部 あせび役の候補者が多かったこともあり、テープを聴く前は、プロの方々にとっては一番演じやすい人物なのかと思っていたんです。実際、皆さんものすごく綺麗な声で演技も上手だと感じたのですが、何故か「あせびに聞こえないな……」という感覚があったんです。その中で、「あせびでしかない!」と思ったのが、本泉さんでした。
本泉 オーディション台本、監督の意図が気になりますが(笑)、深追いせず、自分の解釈を徹底したのもよかったのかもしれません。
阿部 逆に、浜木綿は「浜木綿らしい」と感じる演技をされる方が多かったんですよ。でも七海さんが突出していたのは、これまた台本のひっかけだと思うのですが、「八咫烏シリーズ」特有の漢字の読み方を、きちんと把握されていたこと。八咫烏シリーズでは「仮名」を「かりな」と読むのですが、これって現実世界ではあまり一般的ではないですよね。しかもオーディション台本にはルビ(ふりがな)が振られていない。実際、間違えずに「かりな」と言えていた方は、あまりいらっしゃいませんでした。七海さんはしっかり予習なさったんだな、きっと真面目な方なんだろうな、と思いました。
七海 オーディションのお話が来てから、最初にコミカライズを読み、あまりにも面白かったので、「原作だと、どこまで書かれているんだろう」と思って、原作を読み始めたんです。たちまち読む手が止まらなくなってしまって、ぐわーっと一気に読みました。「かりな」の読みを特別意識していたわけではなかったのですが、のめり込んで読んでいたからこそ、自然と身体に入っていたのかもしれません。オーディション原稿にはいつも自分でルビを振っていて、迷いなく「かりな」と書きました。