七海 なんと、そう言っていただけて、本当に嬉しいです。
阿部 むしろ、スタッフの方々が「もう一回」とおっしゃるのを見て、「えっ、今の演技でダメなんですか!?」と思ったり(笑)。その時、「音の世界って職人芸だ」と理解したんです。私は音響や演技の分野に関してはまったくの素人ですし、ここにいる皆さんにお任せすれば間違いないと、すごく安心しました。
七海 制作スタッフの皆さんが、この作品に対して「どうしたらより良いものにできるか」と、ものすごい熱量を持って考えているんです。ブースに来て説明してくださる、京極義昭(きようごくよしあき)(アニメーション)監督や音響監督さんは、一つの台詞に対しても一言一句こぼさないという思いで情熱を注いでいます。
本泉 その分、アフレコと同時並行で、スタッフさんたちの打ち合わせもじっくりと行われています。「あ、シンキングタイムに入られたな」と思ったりもして。心を込めて、丁寧に作られています。
七海 今回制作されたアニメは、阿部先生の書かれた『烏に単は似合わない』と『烏は主を選ばない』の2作が合わさっているストーリーですよね。
阿部 一作目の『単』は、有力貴族の4人の姫が若宮の后選びのバトルを繰り広げ、二作目の『主』では、同時間軸を若宮に仕える雪哉(ゆきや)からの視点で描いています。アフレコを見学した際に、お二人の『単』パートだけでなく、『主』パートの収録も見せていただいたんです。『単』は四姫を中心とした、気品あふれるノーブルな雰囲気だったのですが、『主』はまた空気感が違いました(笑)。
本泉 見てみたい! 実は私たちも、全体でまだ聞けていない場面もあるんです。路近(ろこん)さんが話すと一体どんな感じだろう……などと気になっています。
阿部 『主』パートの収録って、男子校のような雰囲気で、先の展開を知っている方が、「これから先どうなるんだろう」と呟いた方にレクチャーしている様子も垣間見ました。「実は、あの人は……」「えー!」という声が聴こえてきたり(笑)。『単』『主』を合わせたからこその面白さだなと思って、印象的でした。
七海 私はオーディションに際して原作を読み、山内(やまうち)の世界にどっぷりとはまっていたんです。その分、2作が合わさったアニメ脚本を初めて読んだ時は「こんな世界を一体どうやって作ったんだろう……」と、本当に驚きました。
阿部 正直にお話しすると、脚本について私からご提案した部分も結構あったんです。2つの物語を一つにすると、どうしても構成に歪みが出ます。原作に忠実にしようとするとなおさらです。原作者の視点で感じた問題点をどう解消するのが良いか、私なりの考えを制作側のスタッフさんにお伝えしました。現場の方々からすると嫌だったこともあると思うのですが、耳を貸してくださって、脚本家さんを含め、現場のみなさんが本当に努力を惜しまず、時間のない中がんばってくださったんです。もちろん、私の提案が全て通ったというわけではなく、現場の判断でアニメとして使える要素を取捨選択していただいています。尺の問題でカットせざるを得ない部分もありましたが、最終的には、完成した脚本では私の懸念点はほぼ解消されていて、この条件下での最善に近い構成になったのではないかと。