七海 浜木綿に関しては、笑い方ですね。どんな時でも、目の前の出来事を受けとめて、笑えてしまう人なので、「今ならどう笑うかな」と考えながら演じていました。あと、第9話にものすごく格好いいシーンがありまして。
阿部 オーディション台本にもあった場面ですね。
七海 そうです! ある一言を言う場面で、オーディションではこだわって何度も録り直しましたし、本番でも「すみません、もう一回」と(笑)。
アニメの世界では「お当番回」という、主人公以外のキャラクターにスポットライトが当たる回があるのですが、浜木綿の場合は第9話だと感じていました。中でも、特に格好良さが際立つこのシーンを基準として、彼女の姿を組み立てていったイメージです。
本泉 私は第13話の一言にこだわりたくて、悩みましたね。
七海 その回のアフレコのこと、すごくよく憶えています。もともと、本泉さんのお声を最初に聴いた時から、みんな「あせびだ」「あせびが本当にいる」という風に思っていたんです。その分、アフレコ時にスタッフさんからもディレクションがあまりなかったんですよね。
本泉 確かに、そうだったかもしれません。「あせびだ」と思ってもらえていたなら、本当に嬉しいです。
七海 でも、その一言を発するシーンでだけ、これまでにない勢いで「あの、すみません!」とおっしゃった。
本泉 恥ずかしい、私もめちゃくちゃ憶えてます(笑)。「もう一回やりたいです」と言いました。本番で演じてみた後、どこか不完全燃焼を感じたんです。
七海 スタッフさんたちと話し合っていらっしゃいましたよね。本泉さんの持つこだわりやプランと、スタッフさんたちの考えとイメージをすり合わせる瞬間。一ファンとして、間近でものすごい場面を目撃してしまったと、痺れました。
本泉 そんなに憶えてくださっているとは、なんだかありがたいです。
阿部 あせびがあせびとして成立するポイントを押さえていらっしゃいますよね。周囲からどう見えているか、という点が本当に大事な役柄で。その台詞にこだわっていらっしゃるのは、ピンポイントですごいところを突いてくるな……と思いました。
本泉 原作とコミカライズが出ている分、人物のイメージのしやすさはあったものの、この作品では、逆算しながらキャラを組み立てるのが難しかったです。純粋に作品を楽しむのであれば、前情報なしの状態が一番楽しいのは間違いありません。ですが、あせびを演じるにあたっては、先の展開に向けての見せ方を意識する必要があったので……。事前に読み込んでおかなければ、きちんと演じきれないなという気持ちもありました。
阿部 私がオーディションで“解釈”が合っていると感じたのは、つまりお二人が物語の先を知って登場人物像を作り上げてくださったからでしょうね。同時に、登場人物はその後の展開を知らないかのように演じてほしい、という無茶な希望を持っていたわけですから、思えば酷な話ですよね……。
七海 声優さんにも、事前に原作を全部読んで臨むスタイルと、時系列とともに一緒に育っていくスタイルの2パターンがあります。我々は2人とも前者ですが、分からないままやっていた方がよかったかも、と思う瞬間もありますよね。
本泉 知り過ぎているがゆえに、後悔したり(笑)。
七海 でも、もう読んでしまったら後戻りはできないんですよ(笑)。だからこそ、知ってるからこそのお芝居をと思って、考えながら挑んでいました。
アニメは一話ごとに進んで行きますが、舞台に出演するときは、作品や登場人物の一部始終を分かった上で役作りをします。演じる役の人生を踏まえて、「この場面はこう演じる」と組み立てていくんです。私は舞台出身なので、今回はその馴染んだ方法とも近い感覚で、浜木綿に向き合いました。