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疑惑の目は菊枝→夫の次夫に

 この間、次夫の供述に対する疑問が表れ始めていた。18日付大阪毎日(大毎)朝刊では、菊枝の母親が「警察で娘の遺書だというのを見せてもらいましたが、どうも筆跡が違っているように思いました。主人も同じように言っています」と語った。

 19日付(18日発行)大毎夕刊には、雇い人が五寸釘を買いに行くように言ったのは菊枝ではなく、夫の次夫だったと口外したのが龍野署の知るところとなり、署長が雇い人を取り調べ、結果を中島上席検事に報告したらしいとの記事が載った。

 19日付大阪時事朝刊は「捜査は打切り 菊江の單獨(単独)遂行と決定」と報じたが、21日付(20日発行)の大朝と大毎の夕刊には、龍野署長らが20日午前、高見宅で次夫を尋問、証拠を収集したというニュースが載った。

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 21日付又新朝刊は「龍野の6人殺し 菊枝1人の仕業で無い」と社会面トップで報道。記事によると、事件は菊枝の単独犯行として一段落したとみられたが、龍野署長の報告で捜査は継続となったと記述。

 次夫が母・つねの殺害を計画していたという「龍野に傳(伝)はる新しい噂」を伝えている。菊枝の実家である下津屋家から「菊枝はそんな人間ではない」と疑問と反発が強く、記事には「系図正しい下津屋家の家名が永久に汚された」という家人の発言が載っている。

 このあたりから事件報道のトーンは変わり始める。21日付大阪時事も「6人を殺したのは 菊江1人でないと (にわ)かに力み出した實(実)家側」の見出しで論調を転換した。ただこの時点では、菊枝の犯行に次夫が手助けしたのかどうかが焦点だった。警察・検察は20日未明、次夫を龍野署に勾留して取り調べを始めたことが22日になって報道された。

「菊枝の犯行ではない」「夫の次夫が殺した」

「菊枝の犯行で無いと判明 夫の次夫が殺した」という見出しで又新が報じたのは24日付朝刊。記事の内容は「そらみたことか」というニュアンスがにじんでいる。

「菊枝の犯行で無いと判明 夫の次夫が殺した」と報じた又新

 深い謎に包まれた龍野町6人殺しの大惨劇は、菊枝の姑つねへの復讐の行為のみとして一時葬り去られようとしていたが、鋭敏な当局の目は菊枝の夫・高見次夫(35)に対して共犯か教唆の疑いを抱いた。

 

 さる20日以来、龍野警察に召喚したきり帰宅を許さず、一切接見を禁じて厳重な取り調べを行うとともに、中出署長をはじめ署員全員と、県刑事課から応援の中林警部、古川部長らが不眠不休の大活動を続けた。23日明け方になって、菊枝の犯行でなく、全く次夫の凶行であるという確かな証拠がある程度収集し終わった結果、姫路検事局から出張中の中島上級検事は、次夫を殺人罪で起訴することに決した。その旨、特に本社がいち早く探聞することができた。