裸になり、鑿で、出刃包丁で……。恐るべき犯行の“一部始終”
〈10.15日夕、菊枝に罪を転嫁する手段として、菊枝に雇い人に命じて五寸釘15本を買いに行かせた。つねらの夕食に睡眠薬カルモチンを混入して食べさせた
11.午後9時ごろ、“女性的犯行”を装うため、五寸釘と木槌、裁縫用のこて、鉄製火箸、出刃包丁などを準備した
12.酒を飲んだ力を借りて裸になり、自宅6畳間で皆熟睡しているのに乗じて、まずつねの左頭部を木槌で数回強打して失神させ、同じ場所に鑿を打ち込んだ
13.朝子の頸部を出刃包丁で突き刺し、胸部に深く出刃包丁を刺しておいた
14.綾子の前頭部を木槌で強打し、肉切り包丁で頸部を突き刺した〉
裸で殺し回る姿はまさに悪鬼羅刹(恐ろしい魔物)のようだったろう。魔の手は自分の子どもへ向かう。
〈15.犯行の発覚を防ぐため、つねと一緒に寝ていた晴子の側頭部を木槌で強打した
16.各自の頭、顔、胸、背中に五寸釘を3~4本ずつ打ち込んで惨殺した
17.中庭の井戸で体についた血を洗い流し、外出着に着替えた
18.熟睡していた菊枝を呼び起こし、犯行の全責任を負って自殺させようとしたところ、驚いて起き、惨状を見た菊枝は恐怖と狼狽のあまり2階に逃げ上がり、屋根伝いに隣の家に行こうとした。次夫は追いかけて物干し台まで引き戻し、号泣する菊枝を階下に連れ戻した
19.次夫は菊枝に言い聞かせ、ついに次夫のため一身を犠牲にして凶行の全責任を負う決意をさせ、母を殺した旨を記した遺書を作成させた
20.基一郎を生かして犯行が発覚することを恐れ、妙子も生存させれば自分に不都合と考え、母子、夫妻の心中に見せかけるため、その場で2人を絞殺
21.菊枝が妙子の遺体を背負って縊死すると、その場を逃れた〉
隣家は太蔵の弟とつねの妹が結婚した分家で、つねの妹はのちに、逃げる菊枝と追いかける次夫の物音や叫び声を聞いたと証言。事件解明の一端となった。
こうして未曽有の家庭内6人惨殺は終わった。それにしても、犯行の発覚を恐れたとはいえ、5歳と4歳、2歳の実子を殺せるものだろうか。その事実を知ったうえで、夫の身代わりに罪をかぶって自殺する妻の心情とはどんなものだったのか――。