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 二晩続けて女性を襲った光彦も、暴力のプロであるヤクザには滅法弱かった。当時、フィリピンパブのホステスを無断で連れ出し、ケツ持ちの極道組織が激怒。少女を強姦した翌日、組長に呼び出され、荒っぽい手下の脅しの後、200万円を要求されている。

 このままでは東京湾に沈められる――震え上がった光彦は以後、恐喝を繰り返し、現金を奪うも、200万にはまったく届かない。追い込まれ、狙った先が、少女が住む市川のマンションだった。当時、少女はフリーライターの母親と、再婚相手のカメラマンの継父、祖母(継父の母)、4歳の妹の5人暮らしである。

事件現場を調べる捜査員ら ©共同通信

 事件当日の手紙の描写は綿密で、凄惨で、犯人でなければ書けない異様な迫力に満ちている。

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祖母の抵抗

 夕刻、侵入した部屋には祖母ただ1人。光彦は通帳と現金を出すよう迫った。ところが――。

〈そのオバアさんは僕に従うことはせず、ここにあるだけならくれてやる、といって、自分の財布から数枚の札を放り投げるようにして出しただけ。しまいにはスキをつかれて電話に手をのばし、通報しようとすらされてしまったのです〉

 激高した光彦は体当たりを食らわせ、馬乗りになった。が、83歳の祖母は果敢に抵抗し、爪を立て、唾を吐きかけた。

〈床に配線してあった電気コードを力ずくで引っこ抜き、手元にたぐりよせ、それをオバアさんの首に巻きつけて、このヤロウふざけやがって、老いぼれのくせに、と思い切り引っ張りあげました〉

 初めてひとを殺した光彦は洗面所へ駆け込む。

〈頭から顔、首、手に服と、吐きかけられたツバを何度も何度も洗い流しました。(中略)そのくさい汚物を吐きかけられたことはショックで、行為そのものも許しがたいことだったのです〉

 ショックとか、許しがたいとか、いったいどの口が言う、と呆れるばかりである。実は拘置所の面会室でも犠牲者を冒涜する言動があり、さすがに咎めると、一転、寂しげな表情でこう訴えてきた。

「もっと早くあなたと出会っていればよかった。塀の外で会っていたら僕も変わっていたと思う。僕にはそうやって叱ってくれる人間がいなかった」

 この殊勝な言葉が仮に本音だとしても、すべては後の祭りである。

「うなぎをさくときの方がよっぽど…」

 殺害現場に戻る。金品を物色している最中、少女と母親が帰宅する。

 詳細は省くが、母親は勇敢にも、突きつけてきた包丁にもまったく怯まず、文字通り命がけで抵抗する。が、冷酷な殺人鬼を前に、娘だけは守りたいと覚悟を決めたのだろう。指示に従って床に這うと、光彦は腰のあたりを3度刺し、死に至らしめた。