意識を失った状態で小島に置き去りに
クラセットはシャツをはぎ取られ、背中がむき出しになった。まず、氷のつぶてがその背中を打ちつけた。ついで、1人の男がクラセットに力一杯鞭を振るい始めた。鞭は、クラセットの皮膚を切り裂いた。見守っていた1人は、鞭で20回打たれると、「裂傷だらけになった背中は、人間のものとは思えなかった。黒焦げになるほど火であぶった肉のようだった。それでもまだ鞭打ちは続いた」と語っている。
鞭打ちを命じられた男は、クラセットに鞭を振るい続け、やがて疲れ果ててそれ以上鞭を振るえなくなった。すると今度は、新たな執行人が交替した。「哀れな男が罰を受けている時、その苦痛に満ちた叫び声が、その場にいる者の魂に突き刺さった」と別の目撃者は振り返っている。
クラセットは、50回鞭打たれ、さらにまた50回と、鞭打たれ続けた。その日に予定されていた計200回の鞭打ちがなされると、クラセットは縄を解かれ運び出された。翌日、鞭打ちが再開された。他の罪人も同じように鞭打たれた。海兵隊員の中には苦悶する仲間の姿に恐怖を募らせる者もいて、せめて一度はと、3人目の鞭打ちの実施を妨害しようとした。だが3人は鞭打たれた後に小艇で小島に運ばれ、流血し半ば意識を失った状態で置き去りにされた。
窃盗事件は続き、鞭打ちはますます苛酷に
チープは、これで命令に逆らう者は出てこないだろうと思っていた。「彼らに理性と義務の観念をもたせようと……私は奮闘した」とチープは報告書で主張している。だがやがて、ブランデー4本と小麦粉4袋が貯蔵テントから消えていることが判明する。食料の不足は、チープが科すどんな罰よりも深刻な脅威だった。
漂着者たちの一団が海兵隊員の暮らす幾つかの小屋に踏み込み、消えた食料を捜した。あちこち引っ掻き回すと、一部の幕屋から盗まれた瓶と袋が出てきた。9人の海兵隊員が嫌疑をかけられたが、うち5人は脱走して先の脱走者の一団に加わった。残りの4人は裁判にかけられて有罪判決を受け、鞭打ち刑に処されて島流しにされた。
窃盗事件は続き、鞭打ちはますます苛酷になった。ある者は何度も鞭打たれた後に、チープの命でバイロンたち数人に小島に連れて行かれることになる。けれども、男は瀕死の状態だった。「私たちは気の毒になり、命令に背いて雨風をしのげる場所に男をかくまい、火を起こしてやった。そして男の生命力に賭けて放置した」とバイロンは振り返っている。だが数日後、バイロンが仲間とともにわずかばかりの食料を携えて密かに男の許に向かうと、すでに男は「死んで硬直」していた。