建物内には8人がおり、このうち男性作業員4人と、住み込みの寮母の長女(同13歳)と長男(同11歳)が焼死体で発見され、消火活動にあたった消防士1人も宿舎の崩壊に巻き込まれて殉職……。前代未聞の保険金殺人が起きた1984年の夕張市。首謀者であるヤクザカップルのあまりにも身勝手な「犯行理由」とは? 新刊『世界の殺人カップル』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

ヤクザカップルが保険金殺人を企てた理由は「デートクラブ開業」のためだった…。写真はイメージ ©getty

◆◆◆

子どもを含む7人が死亡…「夕張保険金放火殺人事件」

 1984年5月5日22時40分ごろ、北海道夕張市鹿島しまにある「日高興業」の従業員宿舎で火災が発生、木造一部3階建て延べ350平方メートルが全焼した。

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©getty

 出火当時、建物内には8人がおり、このうち男性作業員4人(当時57歳、同51歳、同49歳、同46歳)と、住み込みの寮母の長女(同13歳)と長男(同11歳)が焼死体で発見され、消火活動にあたった消防士1人(同24歳)も宿舎の崩壊に巻き込まれて殉職した。

 この日、宿舎では新人の男性作業員I(同24歳)の入寮を祝う宴会が22時ごろまで行われており、I自身も火から逃げようと2階から飛び降りて両足骨折の重傷を負い、美唄労災病院に搬送された。

 夕張警察署と夕張市消防局は、現場検証を行った結果、火災の原因は宴会のジンギスカン鍋か石油ストーブの不始末で、事件性はないと認定。これに基づき、保険会社は全焼した宿舎にかけられていた火災保険金と、死亡した作業員4人が対象となっていた死亡保険金の合計1億3千800万円を、日高商事の社長である日高安政(同41歳)と妻の信子(同38歳)に支払う。が、2ヶ月半後の同年7月18日、事態は思わぬ方向に動き始める。

 入院していた新人作業員のIが、突然病院から行方不明となり、その1ヶ月後の8月15日、失踪先の青森市から夕張警察署に電話をかけ「火をつけたのは自分で、放火は日高夫婦の指示だった」と告白したのだ。

 これを受け、青森署はIに任意同行を求め、全面自供を得る。それによれば、Iは中学卒業後、札幌の家具店に就職。その後、レストランやクラブで調理見習いをするが続かず、ススキノでソープランドの客引きをしていたときに知り合ったヤクザに誘われ、暴力団「初代誠友会日高組」に入る。その組長が安政だった。安政に実直に仕えること2年、安政から犯行を指示され新人作業員のふりをして入寮。宴会も「俺が金を出す」と自らの提案で開催したもので、皆が酔いつぶれた後、新聞紙に火をつけて障子などを燃やしたところ、火が宿舎全体に広がったのだという。

 この放火の報酬として日高夫婦から500万円を受け取る約束だったものの、実際には75万円しか支払われなかったことで2人への信用を失い、やがて事件の真相を知っている自分が口封じのために殺されるのではないかと疑心暗鬼に。青森まで逃げたはいいが、以前、東京に逃げた組員が連れ戻されたときカンナで指4本を切り落とされたことを知っていたIは、見つかったら何をされるかわからないと恐ろしくなり自首。保険金の対象でもない子供2人まで死なせたことにも強い罪悪感があったそうだ。