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 交代した三枚堂と門倉で解説再開。門倉が、「佐々木さんは裏でうなだれてました。なんでぇー? まだわからないーって」と早速ネタにして笑いを誘う。

 やがて藤井が先手陣を乱して馬を作り、伊藤が離された金を馬取りに再び寄る。これで藤井は飛車取りに馬を入るだろうから、伊藤は飛車を6筋に回って反撃に……ああ、そのために金を上がって飛車の横利きを通したのか、などと検討をしていたが、藤井はすぐ馬を7五に引いた! えっ、先手を取らない? しばし考え、三枚堂と門倉の顔色が変わる。馬の力が絶大で、伊藤の駒が身動きできないのだ。我々検討陣も、形勢が決定的な大差になったことに気がついた。

 

速すぎる藤井の思考スピード

「飛車がいなくともこんなにも厳しいとは」と門倉が言えば、「見ている側でもキツイのに……。対局者はもっとキツイ」と三枚堂は伊藤の心情をおもんぱかった。

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 翌日ABEMA将棋チャンネルでの中継を見直してみると、解説の菅井竜也八段が「藤井叡王は本当の急所が見えている。何となく筋の良い手ではなく局面の急所を見つける能力、〈見つける〉というより〈そういうもの〉という感じで指している」と印象を語っていたが、まさにこの将棋がそうだった。飛車が使えなくとも、と金を残したままでも、相手に手を渡しても、7五に馬がいれば勝てると。見えている世界が違うのだ。

 よく藤井の将棋に対しあちこちで「異次元」「人間を超えている」という言葉が使われる。ありがちな表現と思われるかもしれないが、我々も藤井も同じ局面を見ているのに、視点の位相が違っているというか。それは単に思考のスピードの違いで先行しているだけなのかもしれないが、それにしても速すぎる……。どっちにしろ「世界が違う」と思わされてしまうのだ、文字通りに。

 それでも伊藤は歯を食いしばって玉頭戦を粘った。しかし藤井は端を守る小さな砦の香を取り、あのと金まで消して、反撃の種をすべて消し去る無慈悲な指し回しを見せた。

感想戦では、両者ともに盤の下で扇子をパチパチクルクル

 132手で先手投了。感想戦の前に、2人が解説会場に来てファンに挨拶する。