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 そして最後は口頭でのやりとりになる。両者とも声が小さいので何を話しているのかわからないが、楽しそうだ。これで番勝負が終わりだったら、きっといつまでも続けていたんだろう(後日ABEMAの中継で確認してみたら、内容は、伊藤玉を打ち歩詰めの形にして攻め合うというすごい順だった。なんでそんな手順が口頭だけでわかりあえるのか)。なんとなく、羽生善治-佐藤康光の感想戦を思い出していた。私が観戦記を務めたときは、口頭だけでずっと感想戦をしているので「すみません、並べていただけませんか」と言ったんだっけ。

 感想戦が終わった後、一言だけ藤井に聞いた。壇上の棋士全員も、伊藤も驚いた、と金無視だ。

「と金を取らないのは読み筋だったのですか?」と聞くと、「いや、すこし迷ったのですが……」と、藤井はややはにかみながら答えた。

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「第一感でした」って言われたら勇気君は卒倒するなと思っていたので、すこしとはいえ迷ってくれてはいたんだなとホッとしつつ、藤井を見ると、なんとも柔らかい表情だった。ああ、私の知っている普段の藤井に戻ったなあと実感した。

終局後、解説会場で挨拶する藤井聡太叡王(ファン提供)

これからも藤井と伊藤の2人を大舞台で見られるだろう

 最後に屋敷にも聞いてみた。

「いや、私もと金を取ると思いました。指されてみるとなるほどで、うまいまとめ方でしたよね」

 そして、羽生-佐藤康の感想戦と似ていませんかというと、屋敷は「そういえばそうですね。私が立ち会いをしたときも、2人はずっと口頭で感想戦をしていましたねえ」と笑った。

 羽生と佐藤は先日169局目を指した。藤井と伊藤の2人も、大舞台で、これからもずっと見られるだろう。

 

 関係者の打ち上げで、対局場の近くに住んでいて観戦に来た岡崎洋七段と感想を述べあった。岡崎が「並の人なら飛車取りに馬が入る手から考えるよね」と言い、私も「あれ(馬が引く手)は読めないし指せないよねえ」。2人で感心したような呆れたような顔でビールを飲んだ。ああ、面白い将棋があれば、酒の肴はいらないなあ。

 さあこれでフルセットだ。果たしてタイトル23連続獲得か、伊藤初タイトルか。注目の最終局は6月20日、舞台は数々のタイトル戦が行われた山梨県・常磐ホテルだ。

写真=勝又清和

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