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「叫ばせたかった」ライフルを携えて、クマを撃つために2人だけで山へ…若いマタギがクマ狩りにこだわった理由は

飯島将史(映画監督)――クローズアップ

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 舞台は1980年代、マタギの伝統を受け継ぐ山間の町。熊狩りの季節が近づいていた。しかしマタギ衆の親方から告げられたのは「今度の狩(ヤマ)は、なしだ」のひとこと。熊の減少を理由に、環境庁から猟の禁止が言い渡されたのだという。納得がいかない礼二郎(寛一郎)は、弟分の信行(杉田雷麟・らいる)を誘い出し、磨き上げたライフルを携えて、2人だけで山へと向かった――。

 本作『プロミスト・ランド』は、飯島将史さんの劇映画監督デビュー作だ。飯嶋和一さんの同名小説を原作とし、脚本も監督自ら手がけている。

飯島将史監督

「2人の青年が熊を撃つために山に入り、戻ってくる。非常にシンプルな話です。だからこそ、これなら僕が映画で描きたいと思っているものが描ける作品になると思いました。僕は、観た人が感覚的に何かを受け取れる、そんな映画を作りたいと思っていたので」と、飯島さん。ゆえに、“本作で伝えたかったこと、込めたものは?”という質問にはすごく答えづらい、と苦笑しながらも、こう語ってくれた。

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「過疎化した郷土で、閉塞感を覚えつつ暮らす主人公たちに、不思議と共感したんです。僕自身、仕事したり、日常生活を送ったりする中で感じるフラストレーションとすごく似ている感覚だなと。そして、今の世の中では、そういった感情は、内に隠して生きていったほうが賢いし、楽だとされていますよね。だけど、不器用で、そうはできない人がいる。それが、あの2人だと思った。だから叫ばせたかった……のかもしれないです。押し殺された感情の発露、それを描きたかった」

 一方で、映画のおよそ半分を使って若いマタギの道行きを丁寧に描く。深い雪に覆われた険しい山道を、2人は黙って進んでいく。時々、言葉を交わす。その中で、礼二郎がそこまで熊狩りにこだわる理由も明らかにされるのだが――。

「でも、やっぱり、それははっきりわからなくていいんですよ。映画で全部を描き切る必要はない。描けるはずもない。だから、理屈でわかるより、観て、感じてほしい」

©飯嶋和一/小学館/FANTASIA
配給:マジックアワー/リトルモア

 ロケは今もマタギ文化を継承する人々が暮らす山形県の大鳥地区で行った。地元の猟師、山岳ガイドらの協力を仰ぎ、1年以上かけて山を知り、彼らの文化に触れながらの製作となった。撮影したのは実際に熊狩りが行われる春先。準備に時間をかけた甲斐はあった。たった2人で行う狩猟シーンは、圧巻の出来栄えだ。

「最初は“東京者”である僕らとは打ち解けてくれなかった親方からも、いろいろなことを教わりました。雪山を歩くときの速度から表情、山の神や熊との付き合い方まで。自然と共生する外見(そとみ)の姿だけでなく、その精神性も、本作には込められたと思います」

いいじままさし/1984年東京都生まれ。日本映画学校で緒方明氏に師事。卒業後、阪本順治監督作を中心に、フリーの助監督として数多くの映像作品に参加。本作で、劇映画監督デビュー。これに先駆けて、2023年、山形県・大鳥地区のマタギを追ったドキュメンタリー『MATAGI-マタギ-』を発表している。

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映画『プロミスト・ランド』
6月29日全国順次公開
https://www.promisedland-movie.jp/

「叫ばせたかった」ライフルを携えて、クマを撃つために2人だけで山へ…若いマタギがクマ狩りにこだわった理由は

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