「日本人に“大作戦”をおこなえる能力などない」
もう一つ、あげておこう。真珠湾が奇襲をうけた原因について、米公刊戦史は結論づけている。
「陸海軍情報部および戦争計画部は、入手しえた日本側資料その他により当然そのことを判断しえたにもかかわらず、日本の行動にかんしていえば、真珠湾および太平洋艦隊にたいしては、特別な脅威を感じていなかった」
「中央の軍当局は、日本軍がかならず攻撃に出ることを予期していたが、真珠湾にやって来るとは考えなかった。1941年が進むにつれ、米陸軍、海軍とも、日本は太平洋中部よりも極東方面に攻撃を仕掛けるだろうと考えていた」
これ以上に書くことはくどくなるだけであろう。この思いこみは軍当局だけではなかったのである。ルーズベルトがそう確信しきっていた。日本人に、南方作戦と同時に、もう一つの“大作戦〞真珠湾攻撃をおこなえる能力があるなどとは、毫(ごう)も信じていなかった。大統領、陸海軍長官、最高統帥部、そのほか十分な情報を知っていた人びとのほとんどが、日本人にはそんな大それた能力はなし、と見定めていたのである。
彼らはきっと来る。ただし、攻撃目標はマレー半島を中心とする東南アジアの英領そして蘭領、と頭から結論づけていた。航続距離の短い目本の空母が、真珠湾まで太平洋をおし渡って来るはずはないと。