戦争がはじまり、長期戦となり、日本軍の刀折れ矢尽きたのちに、事実、この予測どおりになったが、いかに煽動された結果とはいえアメリカ世論の人種偏見の何とすさまじいものであったことか、驚愕せざるをえない。

 日米交渉で、ハル長官やウェルズ次官が、アメリカの要求はすべて通すことができるといわんばかりの強い態度に終始したのも、これあるためか、と考えたくなってくる。交渉の最初から最後まで、アメリカ国務省の立場は冷たく、強圧的であるとともに、まことに官僚的、形式主義的であったことが想いだされてくる。

どこを探しても見つからない「真珠湾」の文字

 そして、こと真珠湾にかんすることになると、ほとんどのアメリカ軍首脳の見方は一致していた。一言でいえば、日本海軍が真珠湾を攻撃する公算はまったくない、という点で。

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現在のグアム島

 水深が12メートルしかない真珠湾では、雷撃機からの魚雷攻撃は不可能である。爆弾に全面的に頼るとしても、アメリカのもつ航空機による爆弾の常識では、戦艦の厚い鋼板をつきぬけることはできない。つまり、せっかくの攻撃はすべて無効となる。

 アメリカの軍当局は、日本海軍が浅い海面での魚雷投下方法を猛訓練で完成していたこと、知恵のあるだけをしぼって浅沈度魚雷を開発していることを、想像だにしようとはしなかった。2500メートル前後の高度から投下すると、容易に15センチの甲板を貫通する九九式八〇番五号と称する徹甲爆弾を、日本海軍がもっていることを考えてみようともしなかったのである。

 開戦の4カ月前に、アメリカ海軍は「太平洋艦隊作戦計画」を完成させている。そのなかの「日本艦隊の対米行動の見積り」はこうなっている。

「日本の最初の行動は、つぎのことを目指すであろう。a.グアム島の占領。b.フィリピン諸島ルソン島占領。それにつづいてフィリピン水域、およびボルネオとニューギニア間の水域にたいする制海権の確立。c.北部ボルネオの占領。……」

 どこを探しても「真珠湾」の文字は見つからない。