親子ほど年の離れたカップルを「メイ・ディセンバー」と呼ぶという。名匠トッド・ヘインズ監督が新作映画で描くのは、36歳の成人女性と13歳の少年の情事と、夫婦になった彼らのその後の人生。そこに、彼らの過去の事件の映画化のため取材にきたハリウッド女優が絡み、事態はさらに混乱を極めていく。
かつて、ペットショップで働いていた36歳の主婦グレイシーは、アルバイトとして働く13歳の少年ジョーと肉体関係を持ち、逮捕された。ジョーの子供を妊娠したグレイシーは、刑務所内で出産をしたあと、彼と結婚。そして事件から23年が経ち、過去の事件を映画化するため、ハリウッドから女優のエリザベスがグレイシーたちのもとを訪れる。
グレイシー役を演じたのは、トッド・ヘインズ監督とは5作目のタッグとなるジュリアン・ムーア。事件を映画化しグレイシーの役を演じようとする女優エリザベス役はナタリー・ポートマン。映画を観て誰もが想起するのは、1990年代のアメリカで実際に起きた、教え子の少年と肉体関係を持ち妊娠した女性教師をめぐる事件。果たして映画と実際の事件との関係とは? 誰かの人生を「物語」として消費することの怖さとは?
これは実話を描いた映画ではない
――トッド・ヘインズ監督との仕事はこれで5作目ですが、彼の映画に出演することにはやはり特別な思いがあるのでしょうか?
ジュリアン・ムーア トッドはすべてにおいて特別な人です。出会った瞬間から、その並外れた才能は一目瞭然でした。物語の綴り方から、既存の映画作品から何をどのように参照するのかまで、彼のスタイルはとても明瞭で、深く心に響くんです。役者としても、ひとりの人間としても、私はトッドにとても強いつながりを感じています。
私たちがつくる物語は、(『メイ・ディセンバー』や『エデンより彼方に』(02)のように)家族や家庭をテーマに、ドメスティックな状況を描いたものが多いですが、その物語はときに、私たちが実際に生きている世界とよく似ています。トッドは、卓越した映画技法によって物語をさらに大きなものへと変換することで、こうした物語もまた重要なのだと言っているのです。