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『メイ・ディセンバー ゆれる真実』ジュリアン・ムーア(俳優)

2024/07/12
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実話を映画化することの是非

――本作の物語はとても複雑です。実際に起きた事件の当事者たちがいて、その話を映画化しようとする女優が、取材のため彼らに近づいていく。けれどその無遠慮な取材方法を見るうち、私たち観客は、実話を映画化することの是非について考えずにいられません。一方でこの映画自体が、90年代に起きた実際の事件を下敷きにしていますよね。実話ものや事実に基づいた映画作品はどうあるべきなのか、あなたご自身はどのように考えていらっしゃいますか?

ジュリアン・ムーア(グレイシー役)『メイ・ディセンバー ゆれる真実』©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

ジュリアン・ムーア まず言っておきたいのは、これは実話を描いた映画ではないということ。たしかに本作の脚本家のサミー・バーチは、実際に起きた有名な事件にインスパイアされ物語を書いたし、それが映画の出発点になってはいます。でも脚本はあくまでオリジナルで、私たちが演じたのは映画の中にだけ存在する人物です。

 もし実話を映画化する場合、当然ながら、その物語や人物、そして彼らが経験したことに対して重い責任を負わなければいけません。私が思うに、この映画の主人公であるグレイシーとエリザベスは、共にある種の道徳的な罪を犯しています。それが周囲の人々にどんな影響を及ぼすのか、私たちは映画をつくるうえで、その点を掘り下げていきました。私は人生や社会において何が本当に危険なのか、というテーマに興味があるのですが、私が演じたグレイシーのような人物こそ本当に危険な人物だと思います。なぜなら彼女は、私たちが常識だと考える行動規範の境界線を越えてしまうだけでなく、自分はその一線を越えていないと世間に信じさせようとするからです。彼女は自分の理屈で「真実」を作り上げ、周囲の人々をも危険に晒してしまう。そういう人物を演じるのはとても興味深いことでした。

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エリザベス『メイ・ディセンバー ゆれる真実』©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

――では、演じるうえで、実際の事件からインスパイアされた部分はそれほどなかったのでしょうか?

ジュリアン・ムーア インスピレーションはみんな受けたと思いますよ。このような事件はひとつだけでなく、さまざまな場所で何度も起こっていますから。アメリカでも女性の教師と若い男子生徒の不適切な関係という事例がいくつかありましたし、世界中で同じような事件がニュースになっています。この映画は、これまで報道された多くの似たような事件に着想を得て生まれたのです。特にサミーは、アメリカのタブロイド・カルチャーに関心があったと思います。我々の文化において「物語」はどのように形成され流通するのか。その過程で「物語」がいかに実話から逸脱していくのかに興味があったのでしょう。この映画でも「物語」がつくられましたが、それはタブロイドが発信する「物語」とは別物です。

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