1ページ目から読む
4/4ページ目

哀しく、危険で、ドラマティックな映画なのです

――本作には、ミシェル・ルグランの音楽をアレンジした曲が使われていますが、この曲を使うことは、監督から事前に聞いていたのでしょうか?

ジュリアン・ムーア ええ、聞いていました。トッドからは事前にルグランの曲を使った映画ジョゼフ・ロージーの『恋』(71)を観てほしいと頼まれ、こう言われました。「ジュリアン、僕はこの音楽が本当に好きなんだ。こういうドラマティックな音楽を使って、映画に強弱をつけたいと思っているんだ」。

 撮影現場でも、トッドはいつもルグランの音楽をかけていました。ただ、それはどんな曲が映画のどのあたりにつけられるかをみんなが感じられるようにするためで、実際には後でオリジナルの曲をつけるはずでした。ですが、編集作業に入り、新たに音楽をつけようとしたところ、トッドはもはやルグランの曲なしにはこの映画は完成しないと感じたのです。そこで彼は、ルグランの曲を作曲家に改めてレコーディングしてもらい、それを使用することにしたのです。

ADVERTISEMENT

――この映画は、痛烈な風刺劇のようであり、ブラックユーモアに満ちた喜劇のようにも感じました。果たしてこの映画は、風刺劇か喜劇か、どちらだと思われますか?

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』ポスタービジュアル©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

ジュリアン・ムーア 私はただ「ドラマ」だと思います。たしかに笑える箇所もあるけれど、トッドは誰かを揶揄したりしているわけではないし、何かを風刺しているとも思わない。心を動かされる映画だと思っています。これは、自分が映し出したいイメージを世界に投影している人々について描いた映画ですから。

 人は誰しも自分自身を見つめることを恐れています。特にこの二人(グレイシーとエリザベス)は、自分と自分が犯した罪を見つめることを徹底して拒む人たちです。自分がつくりあげた世界や、世間に提示する「物語」にしがみついているのです。それは真実とは別のものなのに。この映画の登場人物たちが話していることの多くはとても不快で、ときには居心地が悪過ぎて笑ってしまうかもしれません。でも私にとっては、これはただ哀しく、危険で、ドラマティックな映画なのです。

Julianne Moore/1960年生まれ。『ブギーナイツ』(97)、『ハンニバル』(2001)、『アリスのままで』(14)など話題作に多数出演。トッド・ヘインズ監督とは長年協働し、『エデンより彼方に』(02)ではヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞した。