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いまでもそうだが、音楽番組はキャスティングありきである。その回に出演する歌手は前もって決まっている。よほどのアクシデントでもない限り、その歌手が出演しないことはない。また歌手の序列も厳然としてある。番組の最初は新人歌手が歌い、最後は大御所の歌手で締める。それらの“常識”を疑う者はいなかった。

そこに敢然と立ち向かったのが、『ザ・ベストテン』だった。初回の中島みゆきのように、ベストテン内に入っても出演を辞退することがある。

当時フォークやロック、ニューミュージックの歌手はテレビに出ないことが多かった。それでも番組は粘り強く交渉を続けた。松山千春や松任谷由実などは、その努力が実ってようやく出演。一方、矢沢永吉は結局出演が叶わなかった。ほかにもそのような歌手は少なくない。

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相手がトップスターでも順位は変えない

また歌手は10位から順に登場するので、大御所演歌歌手が最初のほうで歌い、デビューしたばかりのアイドル歌手が番組のトリを飾るということも当然起こる。他の音楽番組を見慣れた視聴者にとっては、それがまず新鮮だった。

やはり初回のことだが、山口百恵の出演についても裏で一騒動があった。当時山口百恵はトップスター中のトップスター。番組側は、当然10位以内に入るだろうと予想していた。所属プロダクションにも事前に連絡を取り、スケジュールをあけてもらっていた。半分キャスティングしていたわけである。

ところが蓋を開けてみると、「秋桜」が12位で「赤い絆」が11位。これを知ったプロデューサーのひとりは、「山口百恵が出ないとはどういうことだ! おまえは番組をつぶす気かッ」と烈火のごとく怒った。そして「ほかの歌手と順位を入れ替えたらどうだ」とまで迫った。

だが番組の企画者でディレクターだった山田修爾は、「いえ、それはできません」と突っぱねた(前掲『ザ・ベストテン』)。

結果的にそれは大正解だった。『ザ・ベストテン』の斬新さはたちまち視聴者を惹きつけた。最高視聴率は41.9%(世帯視聴率。関東地区、ビデオリサーチ調べ。以下同じ)。1年間の平均視聴率が30%を超えた年もあった。全604回の平均視聴率でも、23.9%と20%を超えた。