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乳児院に限らず、児童養護施設で育つ子は、家庭で育つ同世代の子と比べて、経験が圧倒的に足りないという指摘がある。また、乳児院では、子供の「愛着」を形成することも簡単ではない。「愛着」とは、養育者と赤ちゃんの間に築かれる絆のようなもの。例えばハイハイをした赤ちゃんが急に不安になっても、母親のあたたかな膝を思い出せば、不安を鎮め、大きな混乱をきたすことはない。愛着があれば世界を広げることができ、安定した対人関係を築いていくことができるといわれる。

一方、虐待などで愛着をもらえなかった子どもはさまざまな問題行動を引き起こす傾向があり、それは「愛着障害」と呼ばれる。他人のバッグを勝手に開けたり、他人の靴下を履いて帰ってきたりする行為は、人との距離がわからないという愛着障害が引き起こす行動とも言える。それにより対人関係に支障をきたす、衝動を抑えるストッパーを持たないなど、愛着を獲得できなかった子どもは、その後の人生でも生きづらさを抱えて生きていくことになるのだ。

「この子は里子と言いましょう」が招いた悲劇

純平くんにも、その要素がなかったとは言い難い。それでも坂本夫妻は精一杯の愛情と時間を注ぎ、純平くんの「妹が欲しい」という願いにも応え、3歳下の友紀ちゃん(仮名)を里子に迎えて、一家4人、幸せな日々を過ごしていた。

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「いろんなイベントをやったり、森に出かけたり、旅行に行ったりね。純平も友紀も自分だけのお父さんとお母さんがいる生活は、幸せだったと思うし、私たちもそれがつづくことを望んでいた」

しかし、一歩家の外に出ると、そのような和やかな世界はなかった。純平くんには多動の傾向もあり、幼稚園の頃から「変な子」と言われ周囲から浮いていた。それでも友達と遊んでから帰宅するなど、交友関係を広げていた純平くんだったが、進学した小学校で、担任が坂本さんに提案したことが、坂本家を窮地に追い込むことになる。

「この子は里子だと言って周囲からの理解を深めることで、みなさんに協力していただきましょう」