「話が面白くて店に来る人もいる」前田夫妻のトーク

 全国から訪れるファンの中には「店で売っている物産を持ち帰って販売しましょうか」と言ってくれる人もいる。

 志賀町の増穂浦は「日本三大小貝名所」の一つとされ、冬には桜貝など様々な貝が打ち上げられる。「三十六歌仙貝」と呼ばれて細工などに使われ、岡本さんの店でも貝合わせのセットや桜貝の瓶詰め、アクセサリーなどを販売している。これらをボランティアで売ってくれるというのだ。

桜貝(ロードパーク女の浦)
色とりどりな貝合わせのセット(ロードパーク女の浦)

 店は3人で営業している。この日は岡本さんしかいなかったが、普段は前田隆さん(81)と一子さん(77)の夫妻が手伝っている。あまりに客が来ないので夫妻は早めに帰っていた。

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 店での担当は、岡本さんが主に厨房、前田さん夫妻は接客だ。岡本さんが「前田夫妻の話が面白くて店に来る人もいる」と話していたので、後日改めて通りすがりに寄った。

 夫妻のトークは聞いていた以上に幅広くて奥深い。隆さんはタンカーに乗務していたので、全国の海を知っている。他にも農業、漁業、能登空港の利用の方向性まで、話題はなんでもござれだ。

 その日、店にいた松嶋賀澄(かすみ)さん(50)は「前田さんはどんな話にも対応できる天才なんです」と話していた。

「ロードパーク女の浦」の面々。左から前田一子さん、松嶋賀澄さん、岡本澄子さん、前田隆さん

やさしい人とやさしい味に癒される店

 松嶋さんは町内在住で、本業は保険会社の営業だ。悩みがあると岡本さんの店に立ち寄り、手伝いまでするようになった。

 保険の仕事は厳しい。能登半島地震の被害調査に県内外を走り回り、人々の苦しみや悲しみを一身に受け止めている。「昔は悩んだら図書館に行けば解決すると言われ、私は図書館に入り浸りでした。ただ、解決しない問題もあります。そんな時にこの店に来ると気持ちが楽になるのです」と語る。

 隆さんは「営業から離れて、関係ない話をざっくばらんにできるから、息抜きになるんだな」と解説していたが、確かにこの店では座っているだけで気持ちが和らぎ、会話に引き込まれて時が経つのを忘れてしまう。不思議だ。

 宮崎美子さんが色紙に「やさしいお店」と書いたのは、そういう意味だったのだろうか。

 前田さん夫妻は接客だけでなく、店の味にも寄与している。新鮮でコリコリしたワカメは漁に出る隆さんが調達している。物産販売コーナーに並べておくと、すぐに売れてしまうそうだ。米は親類のこだわりの農家から買っており、「東京から来たお客さんが、あまりに美味しいのでお代わりしたほどでした」と隆さんは話す。

「ロードパーク女の浦」の物産コーナー

「ずーっと以前なんですが、北野武さん、松田聖子さんなども来たことがあるんですよ。色紙はいっぱい貼ってあったのですが、前回の能登半島地震(2007年3月25日発生、最大震度6強)で落ちて、仕舞ってあります」と一子さんが教えてくれた。

 やさしい人とやさしい味に癒される岡本さんの店。

 81歳が2人、77歳が1人という超高齢の店だが、地震に負けず、いつまでも元気でいてほしい。

 名残惜しいが店を出た。

 次は能登金剛で随一の名所・巌門だ。

撮影=葉上太郎