日本海を見ながら、ワカメどっさりの「能登ラーメン」を堪能

 少し奧に入ってみる。もう一度、声を掛けて返事がなかったら帰ろうと思っていたら、「はい、はい」とエプロン姿の女性が出てきた。畳の間でテレビを見ながら、遅い昼食を取っていたらしい。

 店主の岡本澄子さん(81)だった。

「ここがいいね」と勧めてくれたのはカウンター席だ。駐車場越しに日本海が見晴らせる。

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「水平線を見ていると、地球が丸いと感じられますよ」と教えてくれた。

「ロードパーク女の浦」の駐車場からは、能登金剛遊覧船が見える(志賀町)

 たまたま入った店ではあったが、テレビでは何度も取り上げられているらしく、カウンターには芸能人の色紙がたくさん飾ってあった。経緯は後で聞くことにして、まずは空腹を満たそう。

 入口に「名物 能登ラーメン」と書いてあったので、迷わずに頼む。どんな料理かは、出てきてのお楽しみだ。

 しばらくして出てきたラーメンは、麺が見えなくなるほどワカメがどっさり載せられていて、イカのゲソなどがポン、ポンと入っていた。

 湯気から潮の香りがする。

能登ラーメン。麺が見えないほどワカメとイカのゲソが入っている(ロードパーク女の浦)

宮崎美子さんのコメントは「やさしいラーメン、やさしいお店!」

 コリコリと歯ごたえのいいワカメ。下ゆでをしたイカは旨味が凝縮されていた。あっさりとした醤油スープとの相性が抜群で、全体をまろやかに包み込む。箸が止まらなくなり、柔らかめの麺がどんどん胃に吸い込まれた。「いけない」と思いながらも、スープまで飲み干してしまう。後味がいい。しかも、もたれない。

 岡本さんは「私はあっさりした味が好きなので、醤油スープにしているんですよ。具はその時によってイカの身だったり、足だったり。タコの時もあります」と説明する。

 カウンターの色紙には、女優でタレントの宮崎美子さんが書いたものもあった。2022年、中部地方の民放8局が放映した『秘境の迷店ラーメン』という番組のロケで来て、「『ここは秘境かねえ。秘境じゃないよね』と言いながら食べたんですよ」と岡本さんは楽しそうに振り返る。色紙には宮崎さんが「やさしいラーメン、やさしいお店!」とコメントを添えていて、まさにその通りのやさしい味だった。

カウンターに飾られた色紙。左から2枚目が宮崎美子さん(ロードパーク女の浦)

 店にテレビが来るようになったきっかけは、本への掲載だ。

 2019年1月、ライターの橋本倫史さんが『ドライブイン探訪』(筑摩書房)を出版し、岡本さんを個性あるドライブイン店主の一人として取り上げた。橋本さんは同年4月、TBSテレビの『マツコの知らない世界』に出演し、岡本さんの店を紹介した。

 放映直後のゴールデンウィークには、ラーメンを頼む客が殺到し、材料の在庫が尽きてしまったほどだった。

 その後、次々とテレビに出た。

 テレビを見た人が遠方から来て「やさしい味」のファンになる。能登ラーメンだけでなく、海鮮丼も人気だ。

 外国からも来客がある。「ネットで情報が流れているのでしょうか。ブルガリアから来た人に『有名ですよ』と言われたこともあります」。岡本さんは信じられないという表情で首を傾げる。