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「アメリカ兵にひと泡吹かせてやろうぜ!」

 そのうち、青年将校が安藤らに呼びかけた。

「おい、われわれは、まだ負けてはいない。天城山(あまぎさん)にこもって、米軍を迎え撃とうではないか!」

 安藤も、このままおめおめと負けを認めるのは癪(しゃく)であった。

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「よし、武器を集めよう!」

 隊内にある武器をすべて集めた。手榴弾(しゅりゅうだん)が300発、陸戦隊の突撃用自動小銃200連発5丁、小銃十数丁、それに拳銃が集まった。日本刀は、各自が所有していた。

 安藤ははずんでいた。

「天城山なら、鹿も猪もいる。最後の一兵まで徹底して戦い、アメリカ兵にひと泡吹かせてやろうぜ!」

 ところが、青年将校の決起計画を知った隊長が、止めた。

「おまえらは、畏(おそ)れ多くも、天皇陛下の御心(みこころ)に逆らうのか!」

 陛下を出されては、それ以上逆らえない。天城山作戦は、取り止めになった。

狂ったように飲み、軍歌を歌いつづけた。

 安藤たちは自棄(やけ)になり、持っていた手榴弾の安全ピンを外し、海に投げた。すさまじい音がして、水柱が立った。

 そのあとに、魚がプクプクッと浮いてきた。安藤たちは、その魚を捕り、浜辺で刺身にした。あるだけの酒を持ってきて、酒盛りをした。

 狂ったように飲み、軍歌を歌いつづけた。

 明日から自分たちがどう生きていけばよいのか、安藤にはわからなかった。ただ、日本が敗れてしまったのだという実感が飲むほどに伝わってきた。

俳優としても活躍した安藤昇 ©文藝春秋

着々と進められていた、アメリカの進駐政策

 安藤は、横須賀から藤沢(ふじさわ)近くの新長後(しんちょうご)に帰った。満州から引き揚げていた両親たちは、東京から疎開し、そこに移り住んでいた。

 安藤は、2カ月間、大家から借りた小さな畑でジャガイモを植えたりしてぼんやりと過ごした。

 この間、アメリカの進駐政策は、着々と進められていた。

 8月30日には、連合国軍最高司令官マッカーサーが、厚木飛行場に到着した。マッカーサーは、上着無しのカーキ色の服に、黒眼鏡、大きなコーンパイプを手にし、第一声を発した。

「メルボルンから東京まで、長い道のりだった……」