「からゆきさん」とくくられる娼婦たちにも、それぞれの激動のドラマがある。その1人が遺した録音テープについて調べた牧野宏美さんは「そのからゆきさんは16歳でシンガポールの日本人娼館に身売りされ、多いときは1日49人もの客の相手をした。1年半でイギリス人に身請けされ、周囲もうらやむ生活になったが、妊娠しても産むことは許されなかった」という――。
※本稿は牧野宏美『春を売るひと 「からゆきさん」から現代まで』(晶文社)の一部を再編集したものです。
娼婦との行為中に「うれしかろうが」と確認してくる日本人客
春代(仮名)は、客についても言及していた。宮崎が「中には外国人で助平がいたでしょう」と尋ねた際は、それをきっぱりと否定した。
〈いやあ、やっとだない、やっぱ、そうでしょう旦那さん。まあ、正直のあらたまりよう。学問のあるやつやっけんね、やっちゃにゃしません〔ひどいことはしません〕。〔外国人が〕やっちゃにするっちゅう人は、こりゃ間違うて言いよる人。絶対です。絶対、あのごめんなさいよ。日本人が隠れとる。怒っちゃくれますまいな。そして、日本人の人はいいよらす。おい、君、ん、なんだい、うれしかろうが。何をですかって、こう言うたないな。何がうれしかっでしょうかってこう言うたな。気持ちよかろうが。屁どんかめと思いよった、心の内で。もうごめんなさいよ。正直な話ば今やりっぱにしよっとけんな〉
〈君、うれしかろうが、必ず言わすよ。日本人の人がさな〉
〈そしてもう、あんまりうれしゅうなかときは、怒らんなら言うですけれども、ってこう言う。怒らんで言えって。ふん、日本人なんかは、もう好かんって、外人が一番よかって、私言いよったですよ。何、もう一遍言うてみろ。そうです。太かろうが、長かろうが。そうです。なんも隠さん〉
女性の扱いが乱暴なのは日本人だと他の「からゆきさん」も語った
「うれしかろうが」「気持ちよかろうが」と言って同意を求めてくる日本人より、外国人の方がよかったという。苛酷な環境で働く春代は、教養があり紳士的な対応をする外国人に比べ、女性の気持ちをおもんはかることなく、自分の欲求を満たすことにしか関心がないような言動をする日本人男性を腹立たしく感じたのだろう。