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戦争で困窮し仕方なく身を売った女性と、興味本位の女性

主に家計を担う家族を失うことは、経済的困窮に直結し、親が再婚して義父母ができたり、養女に出されたりと生育環境に大きな変化を生みやすい。戦争で親を亡くすのは当時としては珍しいことではなく、女性たちの生き様に戦争が大きな影を落としていたことは間違いないだろう。

「パンパン」となった結果、妊娠する女性も現れた。89人中、占領兵との交際で妊娠した人は少なくとも6人おり、3人が出産していた。残り3人は流産、死産を経験した。女性たちが妊娠を望んでいたかどうかはわからない。戦後の混乱期、1人で生きていくだけでも大変なのに、子どもを産み育てることは相当の困難をともなっただろうが、占領兵の子どもという理由で家族の支援を得られないケースもあった。

一方で、89人中7人と少数ではあるが、興味やあこがれを抱いてパンパンになったという人もいた。

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日々相手を変える「バタフライ」をしているEさん(26歳)はこう明かす。以下の証言はいずれも『街娼 実態とその手記』による。

〈『借金があるから止めるに止められぬ』と云ふのは口実で、収入が多いからと面白いから止めないのです。(中略)あの夜の仕事は楽しくてやめられません、性病の恐ろしい事は知ってはいますが、快感の方が強い力を持ってゐます〉

興味を抱いて娼婦になった女性が簡単には抜け出せない構造

Eさんのように「面白い」「楽しい」とはっきり言い切る証言は他には見当たらず、レアケースと言えるだろう。これ以外は、当初は占領軍やその周囲の人々の華美な生活に憧れて自らの意思でパンパンになったものの、「日本人として恥ずかしい」と悩んだり、占領兵との交際がうまく続かないことなどから「足を洗いたい」と漏らしたりして後悔しているようにみえる女性の方が目立つ。

そもそも、多感な10代~20代の女性が華やかにみえる占領兵や豊かな生活に興味や憧れを抱くのはいたしかたないこととも言え、彼女たちを責めることは酷だろう。むしろ、関心を持っただけで簡単になれてしまい、その後抜け出せなくなってしまう社会状況や環境を問題視すべきだと考える。