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『街娼』中の証言のなかには、複雑な家庭環境などから家を出たことをきっかけに、出会った男にだまされたり、キャバレーなどで仕事を始めて占領兵と関係を持ったりするケースも散見される。

「家出」した少女に性的搾取しようとする男が近づいてくる

17歳のFさんは、静岡県の料理屋の子として育ったが、「3歳の時にもらわれてきた子で、実母は三重県にいる」と知らされ、「帰りたくなって」12歳の時に実家に帰った。しかし、実母は温かく迎えてくれたわけではなかった。

〈実母のところは、人数も多く、他へ養女に出ていて帰ったために私に冷たい感じをもつていて、おしめの洗濯など、私にだけさせたので、家出してしまつた。15才のときの春ころで、名古屋まで無賃乗車して、駅へ下車してブラブラしていると、朝鮮の青年が来て、食事をさせてやるからと云つて近くの宿屋につれてった。いろいろ食事を御馳走してくれてから、強姦されてしまつた。私はいやらしいことをされたので駅へ逃げ帰つてしまつた〉

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Fさんはその後実家に戻るもまた家出し、「収容所」に入れられ工場勤務をしていたが、そこもウソを言って出て京都に来たという。

若い女性が居場所を求めてさまようとき、性的搾取の対象としようとする男性がすかさず近づき、結果的に女性が性売買に携わるきっかけをつくっていることがわかる。

【参考記事】毎日新聞「『パンパン』から考える占領下の性暴力と差別 戦後75年、今も変わらぬ社会

牧野 宏美(まきの・ひろみ)
毎日新聞記者
2001年、毎日新聞に入社。広島支局、社会部などを経て現在はデジタル編集本部デジタル報道部長。広島支局時代から、原爆被爆者の方たちからの証言など太平洋戦争に関する取材を続けるほか、社会部では事件や裁判の取材にも携わった。毎日新聞取材班としての共著に『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』(2020年、毎日新聞出版)がある。