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 横溝時雨はある日、中学時代の転校生、三浦杜子春と再会する。やたら言動のおかしい杜子春であるが、彼は異世界から転ぜられてきた意識を一つの身体に同居させる「転生者」なのだという。バルナランドという過酷な政治体制をもつ異世界の出身で今は杜子春の身体に宿る転生者は、クービンという前世名を名乗った。杜子春の失踪により、かえって「転生者」の真偽に興味を持った時雨は、彼から聞いていた「ハニカミ屋」なる人物にコンタクトし、「転生者支援センター」にスカウトされて働きはじめる。高次元時空構造をもつ宇宙には無数のパラレルワールドが存在し、神出鬼没の「スポット」に落ちて意識を転送される異世界転生者は絶えない。新橋の雑居ビルの一角にある「転生者支援センター」に集まる相談数からみても、その数は決して少なくないのだった。転生者が最初に直面する困難は、転生先の身体の持ち主との意識の相克と受容の過程である。

横溝時雨と三浦杜子春(イラスト・柊季春)

 意識の相克と受容。私はここに好感を覚えた。転生系ライトノベルの型(パターン)においては「わたしは突然前世の記憶を思い出した」の一言で存在と一回性の人生の尊厳をまるごと抹殺されてしまう転生先本来の人格について本作は透明化することなく、むしろ転生という事象から生じうる共存の理想をいくつかのかたちで示している。

——どういう経緯でこの子はあなたの宿主になったの?

 

——両親はこの子にソウルメイトか守護霊をあてがうつもりだったようだ。その役割は充分果たしているから、それなりの信頼は得ている。

 世界設定のお約束の共有によって発展したライトノベルの異世界転生にはない、前世や転生先となる異世界設定および各キャラクターの奥行きとオリジナリティ、バリエーションの多彩さはまさしくSFの醍醐味であり純文学の風格。これから本作を手にする方々にはぜひ島田雅彦の自在なイマジネーションを楽しんでほしい。

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 榎本武揚なる投資家の出資を受けながらハニカミ屋が続けてきた研究開発により、超高次元宇宙の座標とゲノム情報転送技術を用いて任意の異世界への転生システムが構築されると、危惧したとおり榎本とその手下の二階堂をキーパーソンとして資本家連中による身勝手な植民地化構想が姿をあらわす(五稜郭でおなじみ同姓同名の榎本武揚は、明治政府の閣僚となってのち殖民論を唱え、殖民協会を設立した人物ですからね)。物語はここから加速度的に面白さを増していく。システム開発の実験体となっていくつもの転生者の意識を受け入れ、自らもいくつも異世界に分身を存在させる杜子春。時雨もまた協力者の身体に転生して「大植民計画」に立ち向かう。ハニカミ屋から志を託された杜子春と時雨たちは、醜い欲望に乗っ取られていく大転生時代にどのような革命を起こすのか……?

ハニカミ屋とモニカ(イラスト・柊季春)