そのため、たとえ公的機関や大企業でも、外国語で情報発信をおこなう際にネイティブチェックをおこなうという発想はほとんどない。加えていえば、自分の責任が問われない状況で他者のミスを見つけた場合に、わざわざ訂正を提案するようなお節介をするスタッフもすくない。
「対日世論工作」ができない人々
日本語はひらがなとカタカナの表記、助詞や語尾の表現などが複雑だ。それどころか、フォントや改行がちょっとおかしいだけでネイティブの日本人の目には不自然に見える(だがノンネイティブにはまず判断できない)という、非常に言語障壁が高い言語だ。ゆえに中国の日本向けの情報発信は往々にして、「怪レい日本语」(変な表記の日本語)になりがちである。
当然、これは地方政府や大企業の平和的な広告だけではなく、彼らが日本に対しておこなう「世論工作」でも同様だ。中国の大使館や総領事館の関係者が、SNSでアメリカや日本に攻撃的なメッセージを発する「戦狼外交」的なポストが、ヘンな文章なので誰の心にも響かない……といったケースは、現在までもすでに多数確認されている。
世間では中国が日本に世論工作を仕掛けるという懸念も囁かれているが、相手の国の社会をマジメに理解し、自然に受け入れられる形で自分たちに有利な情報を流す行為は、中国が最も苦手とするところだ。もちろん、それらが得意な中国人も存在してはいるが、そういう「他者の視点」を意識した柔軟な思考ができる人は、現在の党体制には協力したがらない。
ゆえに、中国の情報発信のレベルを考えれば、すくなくとも「世論工作」については現時点での過度な心配は不要だろう。むしろ、巨大化した中国人商工会がカネで議員や政党を切り崩したり、日本人が立ち入れないコミュニティを拡大したその内部に中国政府の出先機関を勝手に作りはじめたりするシナリオのほうがまだしも現実的ではないだろうか。
中国人参加者しかない「交流」イベントと、大量にブースを出す統一戦線工作組織と、公的機関のブースにすら登場する怪しい日本語。お気楽なチャイナフェスティバルから見えてくるものは、意外と多いのだ。
*
本記事の著者の安田峰俊氏が「三国志やキングダムは好きなのに現代中国はイヤになった人に勧める」と語る新著、『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)は9月18日刊行です。