一番驚いたのは90代の父の“家事能力”
両親を客観的に見るようになって私が一番驚いたのは、90代の父の、家事全般に対するポテンシャルの高さでした。今までは娘として、母の認知症の進行ばかり気にしていたので、結局、母のことしかちゃんと見ていなかった私。それを反省して、父のことも気にして見るようにすると……。父はなんと、普段の母との生活で、私の想像を遥かに超える活躍ぶりを見せていたのです。
前にも書きましたが、父は、母が認知症になるまで、全く家事をやる人ではありませんでした。母が元気なうちは、家事は完全に母任せで、趣味のコーヒーを淹れる以外は縦のものを横にもしなかった人です。でも、気がつくと「え?これも?」と驚くほどさまざまな家事を、母に代わってやり始めていました。
まず始めたのは、洗濯です。
母が洗濯しないままでいると、父の洗濯済みの下着も底をついてきます。お風呂上がりにはキレイな下着に着替えたい性分の父は、まず自分の物から洗い始めました。たらいに水を張って、洗剤を入れて、原始的な手洗いです。見慣れないビニールの手袋をはめていたので、聞くと、
「洗剤負けして手荒れするけんのう、買うてきたんよ。ハンドクリームも買うてきて塗りよるよ」
手荒れに気を遣っているなんて、お父さん、女子力が高すぎるわ。
父は、最初のうちこそ母に、
「わしは自分のぶんは洗濯したけんの。おっ母も自分のぶんは洗えよ」
と言っていたのですが、そのうち、
「しょうがないのう。どうせならおっ母のぶんも一緒に洗うてやろうかい」
と言い出して、母の下着も洗ってやるようになりました。
洗うだけでなく、乾いたら畳むのも父の仕事です。母のブラジャーを「これは、乳にするぶん」「これはパンツ」と言いながら畳んでいる姿には、思わず、くすりとしてしまいます。母の下着を畳む父を私が撮影していると、母が横で必死になって、
「初めてよ、お父さんがこんなことしての。今までいっぺんもしたことないのに」
と言い訳しているのですが、どう見ても初めてやる人の手つきじゃない、畳み慣れた人の畳み方なんですよね。母の、「お父さんに私のブラジャーを畳んでもらいよるのを、娘に見られてしもうた。恥ずかしいわあ。どうしよう」(実際にそう言ったわけではないですが、絶対そう思っていたはず)という慌てぶりも笑えるのですが、父が母のブラジャーやパンツを丁寧に畳んでやっている姿には母への深い愛情が見える気がして、私は大好きです。