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「自覚、家庭、環境の調整が大切」少年法への考え

 少年法「改正」問題で1970年から始まった法制審議会少年法部会の審議はドラマでも描かれた。18・19歳を「青年」として処罰を強化するという法務省の方針に対して、部会メンバーの嘉子は「寅子」同様、慎重な対応を求める。親しかった糟谷忠男(盛岡地・家裁所長)は「判例タイムズ」1984年7月号に「家庭裁判所覚書(5)三淵嘉子さんを(しの)んで」を書いている。それによると、嘉子は自らの少年審判の体験から説き起こし、要旨こう述べたという。

1. 少年審判は刑事裁判のように罪を裁いて罰を科すものではなく、少年の非行の存否とその処遇を調査、審理することによって少年の実質的な人権の実現を図るように志向すべきものである。少年の形式的な人権保護の名のもとに、少年審判に刑事手続き並みの手続きを導入することは適切でない
 

2. 少年の更生には、少年の自覚とともに、少年を取り巻く家庭および、その他の環境の調整が大切。そのためには、現行の少年審判制度と少年保護機構に不完全なところがあっても、そのよって立つ保護教育主義の原則を崩してはならない

NHK『虎に翼』公式Xより

「家庭裁判所覚書」は、ドラマでは「多岐川幸四郎」(演:滝藤賢一)として登場する宇田川潤四郎・東京家庭裁判所所長の官舎に嘉子と2人で呼ばれたことを記している。

「当時、宇田川さんは既に危篤状態であられたが、特に2人を枕元に迎えてくださり、悲痛な声で『自分は少年法改正のこと、家庭裁判所の将来が心配で、死んでも死にきれない気持ちでいる。どうか、後のことをよろしく頼む』という趣旨のことを言葉少なに語られ、最後の力を振り絞るように握手された。数日して、宇田川所長はこの世を去られた」

 これもドラマをほうふつとさせる。

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ドラマでは「家庭裁判所は愛の裁判所だ」と話した「多岐川幸四郎」。モデルは「家庭裁判所の父」と呼ばれる宇田川潤四郎(NHK『虎に翼』公式Xより)

「私は、人間というものを信じている」

「判例タイムズ」1979年11月号の座談会で嘉子はこう発言している。ドラマなら「それは愛だ」と言われるだろう言葉だ。

「やっぱり私は、人間を信じているということなのじゃないかな。人間というものを信じている。だから、どんなに悪いと言われている少年でも、少年と話して審判しているときに必ず、この少年はどこかいいところがあって、よくなるのじゃないかと希望を失わないです。だから、この少年をよくするために私がやるべきことがあれば、一生懸命やらなければならない。現実には失敗だらけなのですが、いつでもその気持ちは変わらない」