犯罪の被害を受けた人のなかには、事件をきっかけに周囲の人々からさらに追いつめられてしまうケースがある。『刑事法をめぐる被害に向き合おう! 被害者・加害者を超えて』(現代人文社、共著)を書いた犯罪加害者の家族を支援するNPO法人代表・阿部恭子さんは「私が支援してきたなかには、夫をひき逃げで失った妻が、賠償金や保険金を目当てに近づいてくる住人に追いつめられていった、という悲惨なケースがあった」という――。
周囲からのバッシングに悩まされる遺族
筆者は、2008年から特定非営利活動法人World Open Heartにおいて、加害者家族の支援を行っている。当時、国内に加害者家族に特化した支援組織はなく、加害者家族はあらゆる支援の網の目からこぼれていた。
2004年に犯罪被害者等基本法が制定され、犯罪被害者やその家族への支援は進んだが、被害者であるにもかかわらず誹謗(ひぼう)中傷に悩まされている人々が存在する。筆者は2021年、被害者遺族らと共に、被害者加害者を区別することなく、事件の影響に悩まされ、支援の網の目からこぼれる人々を支援する団体Inter7を設立した。
本稿では、小さな町で起きた交通事故で、町中から非難される体験をした遺族と、娘が失踪した未解決事件の家族の事例を紹介する。なお、個人が特定されないよう修正を加え、登場人物はすべて仮名である。
夫をひき逃げで亡くした70代の女性
ある日、いつものように加代子が夕飯の支度をしていると、突然、近所に暮らす住人・和夫が家に飛び込んできた。
「大変、賢治さんが車に撥(は)ねられたって!」
賢治は救急車で隣町の病院に運ばれたという。加代子はすぐ、和夫の車に乗り込み、病院へと向かった。
「轢(ひ)き逃げらしいんだ……」
賢治を轢いた犯人は逃走しているようだった。
加代子が病院に着くと、賢治は既に息を引き取っていた。
「まさか、こんな別れ方って……」
加代子は床に崩れ落ちた。和夫は、夫の突然の死が受け入れられない加代子をなんとか宥めながら車に乗せ、集落へと戻った。