自分を見つめ直す2ヵ月間
――次の第66回リーグでは6勝12敗でした。これは冨田さんの三段リーグでもっとも悪い成績です。
冨田 出だしが1勝7敗で、かえってやめられなくなりましたね。競っての結果ならまだしも、こんなボロボロでは。地元の三田にも恩返しできておらず、それでやめるのは自分勝手だなと。プロではなくとも、奨励会三段の肩書なら指導などの活動はできます。年齢制限までの2年は恩返しをするつもりで退会は踏みとどまりましたが、もうプロになれないと思っていました。
――ところが、第67回リーグでは14勝4敗の好成績で四段昇段を決めました。
冨田 身のふり方を相談した友人の一人が起業家で「アカンかったら何とかしたる」と言ってくれました。本気で世話になるつもりはなかったのですが、自分にそこまで言ってくれるんだということは大きかったです。あとはそのリーグ開始がコロナの流行し始めの時期で、本来は4月にスタートするリーグが6月スタートに延期されました。この2ヵ月で自分を見つめ直そうと、米長先生(邦雄永世棋聖)の言葉じゃないですが、「無双」と「図巧」を全部解きました。
――江戸時代の名棋士である伊藤宗看・看寿兄弟が作った詰将棋作品集の「無双」「図巧」をすべて解けばプロになれると言ったのが米長永世棋聖ですね。それだけの熱意を込めればという意味だとされています。
冨田 そうですね。あとこの時期には立命のOBも含めた世代対抗戦がネット対局で行われたのですが、そこで3連敗しました。相手は横山さん(大樹さん。アマ竜王などアマタイトルを多数獲得)、中川さん、木村君(孝太郎さん。第27期銀河戦でプロを4人抜き)だから強いんですけど、現役の奨励会三段が3連敗はまずいですよね。その時の感想戦での様子を見た親に怒られました。将棋のことで親に怒られたことは相当に記憶がありません。自分にとってもショックなことで、これで三段リーグもさんざんだったら人として恥ずかしいなと。