負けた時の痛みは、プロになってからの方がきつい
――奨励会では苦労されましたが、プロになってから実質的な1年目である21年度は32勝16敗の成績でした。対局数ランキングでは10位タイです。
冨田 最初の半年(20年10月~21年3月)は4勝5敗で、やっぱりプロの先生は強いなと思いましたね。三段リーグの時と比べると、よりファンの方の声も届きます。応援してもらっているのに不甲斐ないなと、いろいろ深く考え過ぎていました。持ち時間の長い将棋を丸一日かけて負けるというのも初めての経験です。それでも絶対に何か結果を残さなくてはいけないという思いがあったから、30勝できたのではとも考えます。
――一局一局の勝ち負けについてはいかがですか。
冨田 負けた時の痛みは三段時代と比べてもプロになってからの方がきついですね。プロになってから感じるのは勝ちと負けの価値が等しくないことです。勝ってもそれほどうれしいわけではなく、日常が続くという感じなのに、一度でも負けると次の対局があるまではずっと沈んでいます。浮上することがなくて落ちるだけなのできついです。
以前、9連勝後に1敗したときは、「9勝1敗でここまで割に合わないのか」と思いました。どんなにプライベートでいいことがあっても、将棋に負けたらまったく楽しくないんです。逆にいうと他でどれほどのリスクがあっても将棋にさえ勝てばそれでいいんですね。やっぱり勝つことがすべてなんですよ。将棋が好きですから。それでも自分はプロの中では勝ち負けにこだわらない側だと考えているので、他の棋士はもっときついんじゃないかと思います。
写真=石川啓次/文藝春秋