現地に棋士が赴くことが競技人口の増加につながる
昨年6月にはベトナムのダナンで棋聖戦第1局が行われ、小林九段が立会人を務めた。海外でのタイトル戦は4年ぶりで、ホテル三日月グループが「ダナン三日月」を日本文化の発信基地として、将棋のPRをしたいと招聘したものだ。小林九段は海外でタイトル戦が行われ、現地に棋士が赴くことが、競技人口の増加につながることを実感している。その秋にベトナムのハノイで行った指導対局には、2日間で50人ほどのローカルの人たちが集まった。
「ハノイには将棋道場があるんです。集まった人たちはみんなとても熱心に指導を受けていました。ダナンでの棋聖戦を見た人たちにとっては良い経験になったはずですし、ベトナムでは将棋を指す人が増えるはずです」
海外普及に力を入れてきた理由は、将棋界の未来にとって国際的な広がりは欠かすことができないとの思いからだ。
「やはりマーケットが全然違います。将来的には海外のスポンサーがついてくれたらと願いますね。それに将棋はチェスの世界チャンピオンでも一目おいてくれるゲーム。その面白さはまだまだ奥深いものがあるし、日本だけにおいておくには勿体ないですから」
将棋界では、1970年代から故・大山康晴十五世名人が普及のためにブラジルを何度も訪れてきた。ブラジル名人戦は75回の歴史を誇り、多くの日系人高段者が腕を競ってきた。また国際将棋フォーラムの発案者だった故・大内延介九段はアジア各地をまわって市井の人々と対局し、著書「将棋の来た道」にまとめた。
現在では青野照市九段や高田尚平七段がヨーロッパに、石川陽生七段がアメリカでの普及に力を入れている。他にも多くの棋士が個人として海外に脚を運び、将棋文化を伝えようとしてきた。羽生善治会長は海外普及に熱意を見せていると言われ、連盟の今後の活動が期待される。
世界に広がる「どうぶつしょうぎ」
「これを見てほしいんです」
国際将棋フォーラム会場で、チリの選手が北尾まどか女流二段にラッピングされた袋を手渡してきた。開けると中には彼が作った「どうぶつしょうぎ」の駒が入っていた。オリジナル商品ではライオンやゾウ、キリンなどの絵柄だが、彼はチリにいる昆虫を描いていた。
「彼が住んでいる街は砂漠の中にあって、そこにいるアリやクモを描いたそうです。1年に1度、雨の降る時期があって、お花が一斉に咲いてとても綺麗だと言っていました。彼のように、海外の方が自作した駒や写真を送ってくれることはよくあります」