「アキさんのラーメン」を食べたい
2019年より年に数回、15食限定でニンニクとチャーシューをたっぷりと盛ったラーメンを出し始めたのだ。これが、またファンの心に火をつけた。
「一番おいしいのは、ベーシックな豚骨ラーメンです。ただ、たまにある限定ラーメンをアキさんがどういう感じで出してくるのかがすごく楽しみで。もう絶対に食べないといけないみたいな感覚ですね」(遠山さん)
限定ラーメンを提供する前日、髙田さんは15時に営業を終え、片づけと掃除をした後、外で待つお客さんを店のなかに招き入れ、自分は帰宅する。お客さんはキャンプ用のイスなどを持ち込み、ウーバーイーツを頼んだりしながら、夜を過ごす。
19時間待つことを厭わないラーメンマニアの集まりだから、ラーメン談議が弾んで「キャンプみたいで楽しい」(遠山さん)そうだ。それにしても、お客さんとここまでの信頼関係を築く飲食店があるだろうか。
髙田さんは、2024年12月23日、25日にも限定ラーメンを出した。遠山さんは22日のランチにとんこつラーメンを食べた後、今回もそのまま15時から19時間並んだ。その日、一緒に夜を明かしたぶたのほしファンは、ほかに4人いた。
「人生は絶対にお金じゃありません」
ぶたのほしは、2018年1月20日のオープンから1日もお客さんの行列が消えたことがない。売り上げは毎年、前年比を上回る。しかし、髙田さんは現在56歳。ぶたのほしのスープは鉄の棒で常にかき混ぜ続ける重労働のため、「60歳が限界かもしれない」と考えている。それでも現場に立つのか、人を雇って育てるのか、悶々と悩み続けている。
まだ答えは出ないが、理想の終い方は頭のなかにある。「つけ麺の神様」と呼ばれる大勝軒の創業者、故・山岸一雄さんの今際(いまわ)の際の言葉は「いらっしゃいませ」。その事実を知って、「さぶいぼが立った」という髙田さんは、最後の最後まで職人を貫き、厨房でバタッと倒れて死ぬことに憧れる。