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現世への飽くなき執着めいたものを感じさせるコラージュ作品

 次なる空間へ移ると、壁面にコラージュ作品がずらりと掛かっている。花や小動物、唇に目玉、室内の一角……。蜷川作品に繰り返し現れるモチーフが幾重にも貼り合わされ、ときにそのうえから絵具で彩色もされ、デコレーションが施された額縁に収められている。過剰に手が加えられ異様な迫力を帯びた画面からは、作者・蜷川実花の現世への飽くなき執着めいたものを感じる。

コラージュ作品《Liberation and Obsession》

 歩を進めると、大空間へ出た。人の背丈ほどもある衝立状のガラスパネルに、花畑や海中の光景を写した写真を貼った《Silence Between Glimmers》が立ちはだかる。

 さらにその先に、大型作品《Whispers of Light, Dreams of Color》が現れた。上方から吊り下げられた無数のクリスタルガーランドが、照明を浴びて眩しく輝いている。近寄ってみると、イミテーションの宝石や蝶、星、目玉などのオブジェが、たくさんくくりつけられているのに気づく。何千本にも及ぶガーランドはすべて、蜷川をはじめスタッフが開会直前まで手を動かしてつくったものという。無機的な素材でできた作品にどこか温もりを感じるのは、手づくり感が滲み出ているからなのだろう。

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無数のクリスタルガーランドからなる《Whispers of Light, Dreams of Color》

天地が鏡面の「深淵に宿る、彼岸の夢」

 キラキラ光るクリスタルから目を移すと、大空間の奥へと続く通路が見つかった。足を踏み入れると、そこは色とりどりの造花が咲き誇る花園だった。全体が刻々と変わる照明で彩られており、本物の深い森で時を過ごしているような感覚に浸れる。

 花園のさらに奥のほうで、激しく明滅する光が見えた。誘われるまま進むと、いつしか直方体の空間内部にいた。前後左右4つの壁一面はLEDで覆われ、そこに映像が映し出されている。天地はいずれも鏡面で、そこに写る映像が上方にも下方にも無限に続いている。

 自分の身体が重力から解き放たれ、宙空に留まっているようにも天へ舞い上がっていくようにも、または奈落の底へ真っ逆さまに落ちていくようにも感じられる。花園と奈落の空間はひと連なりの作品とみなされ、《深淵に宿る、彼岸の夢 Dreams of the Beyond in the Abyss》と名付けられている。

《深淵に宿る、彼岸の夢 Dreams of the Beyond in the Abyss》

 圧倒的な空間に心を奪われて立ち尽くすことしばし。ようやく我に返って最後の作品へ行くと、そこは静謐な映像と音楽が流れる空間で、これまでの異界巡りでかき乱された心を落ち着かせることができた。