「殺意はなかった」と供述。目撃者の証言との食い違いも

 2月11日の実地検証でジラードは「人に向けて撃ったが、殺意はなかった」と供述。発砲した際のなかさんとの距離については、日本人目撃者が7~10メートルと証言したのに対し「15~20メートル」と主張。食い違いを見せた。

前橋地裁の実地検証(『写真で見る群馬』より)

 2月15日付読売朝刊は、最高検が14日、前橋地検検事正と担当検事を上京させて首脳部会議を開いて協議した結果、事件は公務外の犯罪で日本側に裁判権があるとの方針を決定したと報じた。15日には中村梅吉・法相が同様の方針を明言。対して米側は同日、これまで通り「公務中の事件で、裁判権は米軍にある」と回答。法務省は16日、外務省を通じて日米合同委員会開催を正式に申し入れた。ここから約3カ月間、問題は日米合同委で論議が展開されることになる。

 2月20日、社会党系の全国軍事基地反対連絡会議が主催する「米兵の日本婦人射殺真相糾明国民大会」が東京・新橋で開かれ、身柄引き渡しを受けての日本での裁判と賠償措置を求める決議をした。

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東京・新橋では真相糾明大会が開かれた(読売)

「窃盗中、射殺された」

米兵、日本側で裁判 相馬ケ原事件

 米軍相馬ケ原演習場で弾拾いの日本婦人、坂井なかさんを射殺した容疑者、米軍のウィリアム・「ジラルド」三等特技下士官の裁判権について、16日の日米合同委員会で日本側の裁判に服することに決まった。

 同年5月16日付朝日夕刊は社会面4段でこう報じた。『米兵犯罪と日米密約』によれば、日米合同委の刑事裁判権分科会で3月12日から計6回、話し合いが行われた。内容はいまも非公開だが、「ジラードは上官から機関銃などの監視を命じられた公務中に、警告の意味で薬莢を発射。それが薬莢拾いに侵入していた坂井なかに当たって死亡させた」というアメリカ側の主張に対して、日本側は「機関銃の監視と射撃は無関係」と反論。

 ジラードの負った任務とあの銃撃が結びつく蓋然性のかけらさえもアメリカ側の口舌からは伝わらない。それに比して、日本側の応答は、邦人目撃者のみならず、米兵たちから得た傍証で事件の全貌をほぼ把握しており、正鵠を射ていた(『米兵犯罪と日米密約』より)

 アメリカ側が裁判権を主張し抜けなかったのは当然だった。ところが──。

ジラードの引き渡しを拒否

 5月18日付上毛夕刊は1面トップで「ワシントン17日発UP共同」の「ジラルド引渡し拒否 米国防省が指令」を伝えた。「ウィルソン米国防長官は17日、極東米軍に対し、『相馬ケ原の日本婦人射殺事件について、ワシントンで完全な再検討が終わるまでは、被告ジラルド三等特技兵を日本に引き渡すな』と指令した」。