死亡事故のあとも弾拾いは続いていた

 2月7日付朝日夕刊コラム「三角点」はこう嘆いた。「土地を取り上げられ、弾拾いに行けば殺される。命は一体どこへ拾いに行けばいいんだ」。生活に苦しむ住民が置かれた立場は際どかったが、実際の弾拾いはさらに際どく危険な作業だった。2月7日付朝日朝刊の記事は続く。

 演習が激しくなるほど弾拾いも忙しくなるわけで、最近では、発砲しながら突撃演習をする米兵部隊に“従軍”。手袋をして発砲直後の弾き出された熱い薬莢を争って拾う。実弾射撃の中をかいくぐり、中には砲弾の着弾点近くにタコツボを掘り、爆発を待つ者さえあった。当然犠牲者が出るわけで、1月の桃井村の死亡事故の際も、村民は「運が悪かった」と諦め、弾拾いは続けられていた。

 事件当日も現場付近には約50人の弾拾いの日本人がおり、危険だとして、午前中の実弾射撃訓練から午後は空包に切り替えたほどだった。

 坂井なかさんを死亡させたのが空薬莢だったことについて、2月10日付朝日朝刊の「声」欄に、警察予備隊(のちの自衛隊)で各種兵器の性能、扱い方の教育を受けたという人物が「薬キョウ発射も実弾の威力」という投書をしている。

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 ライフル銃などに空包を詰め、銃口に擲弾筒(細長い手榴弾)を付けて発砲すると、100メートル以上飛ぶ。銃口に密着する薬莢を差し込むことは発射ガスの威力を異常に強くし、押し出された薬莢は実弾と変わらない威力を持つという。

※写真はイメージ ©AFLO

 後で判明することだが、撃ったアメリカ兵は当日、自分の銃の故障で、普段は持てないグレネード・ランチャー(擲弾等発射装置)付きのライフルを上官から貸与されていた。そこに近くに落ちていた薬莢を逆さまに差し込んで発射したわけだが、おそらく、そうしたことは兵士の間で遊びとして日常的に行われていたのだろう。

「圧力で殺人を傷害致死に」

 2月4日、茜ケ久保代議士は衆院内閣委員会で事件を取り上げ、「米兵は犬や猫に餌を与えるようにして撃ち殺した」と非難。真相究明を求めた。社会党は政府に徹底調査を申し入れる一方、現地調査に入ることを決定。問題は全国に知られることになった。社会党は以後も事件追及に積極的で、それがアメリカ側の対応にも影響を与える。

 内閣委の報道と同じ5日付朝刊で上毛は米軍三ケ尻キャンプのウエリントン地区司令部民事部長レイカス大尉にインタビュー。「事故は被害者が立ち入り禁止区域に入ったために起きた。兵の行為は立ち退かせるためで、正規の演習中の出来事だから公務だと思う。殺意は認められず、公務上の過失致死と考えている」との見解を引き出した。同大尉は6日、群馬県知事と面会。第一騎兵師団長から遺族への哀悼の意を伝える一方、立ち入り禁止区域の周知徹底を求める書簡を手渡した(2月6日付上毛夕刊)。