「日本の女を狙い撃ちに」「生きている人間をマトにして…」

 対して2月7日付読売朝刊「編集手帳」は激烈だった。「日本の女を狙い撃ちにして殺した」「生きている人間をマトにして、クレー射撃の練習をするために日本に駐留しているとカン違いをしているらしい」……。

 一方、地元の態度は微妙だった。2月8日付朝日夕刊に「『弾拾い』禁止せぬ 基地反対運動も拒否 相馬村村議ら」という記事が見える。

 相馬村では2月7日午後、村議、地区連絡員の協議会を開き、社会党群馬県連から申し入れのあった基地反対運動への協力を拒否することを決め、8日、回答した。村としては、基地撤廃が事実上不可能だとの空気が強いことと、政治的に利用されたくないとの理由から拒否に決定。協議会でも基地反対の声は全く出なかったという。また、弾拾いの演習場立ち入りについても、村としてはこれまで以上に強く禁止策をとることはできないとし、警察当局に一切を任せることを申し合わせた。

 上毛も翌9日付朝刊「社会党の協力断る 生活の方が大切 政治闘争を恐れる村民」の見出しの記事を1面トップで伝えた。相馬村はこのころ、難題を抱えていた。事件現場を含む広馬場地区が桃井村(現榛東村)に、残りの柏木沢地区が箕郷町(現高崎市)に編入される分村の期日が近づいており、村民の関心はそちらに向いていた。分村は事件2カ月後の3月30日に実施される。

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地元は「反基地」運動への協力を拒否(上毛)

 群馬県警は書類送検に向けて協議を進め、各紙はそれを報じた。2月9日付夕刊は上毛が「被疑事実は過失致死の線が濃いようだが」と書いたのに対し、読売は微妙な書き方だ。

 相馬ケ原事件を捜査中の群馬県警本部は8日夜、米軍捜査当局と交換した捜査資料のうち、銃の性能などを検討した結果、傷害致死容疑で進む事件処理方針を殺人及び殺人未遂容疑に切り替え、米軍第8騎兵連隊第2大隊、ウィリアム・S・「ジラルド」三等特技兵(21)の書類を送ることに決めた。だが、9日午後1時に来県した関東管区警察局・養老公安部長を迎え、石岡県警本部長らと再協議の結果、方針を再変更。従前通りの傷害致死容疑の方針で臨む態度を明らかにし、同日午後3時、前橋地検に送致した。

 他紙も殺人から傷害致死へ方針転換したと書いた。『米兵犯罪と日米密約』によれば、県警内部では「国民感情を考慮に入れ、強気に出て故意による殺人罪で」で一致していたが、警察庁からの圧力があって傷害致死に変更したという。

福田赳夫元総理。1995年に90歳で死去 ©文藝春秋

 9日午前には福田赳夫、中曽根康弘(いずれものち首相)ら地元選出の自民党議員団が県警を訪問しており、同書は「政治的判断があったと疑いたくなる」としている。10日付上毛は「常識的な線」としたが、事件を素直に見れば、殺意を認めるのは難しいが、米兵らは空包で薬莢を飛ばした場合の威力は熟知していたと思われ、殺人で立件する意味はあったと思える。