末尾には「ワシントンAP=共同」で「米議員、裁判権の再検討を要望」という記事が付いている。国防長官の指令はこうした、駐留先の国が自国の兵を裁くことに反対する議員たちの圧力と国内世論に配慮したものだと分かる。
米共和党のフランク・ボウ議員は17日、ウイルソン国防長官に公開状を出し、米最高首脳は相馬ケ原の日本婦人射殺事件の裁判が日本側の手で行われることになったのを再検討するよう要望した。同議員はかねてから、海外にいる米軍人の裁判をその国の手に任せることに反対していたが、この公開状の中で次のように強調している。
勤務中の軍人に関する裁判権を米国側が持つことはたびたび保障されていたにもかかわらず、相馬ケ原事件は日本側に移された。新聞は、今度の事件が勤務中に起こったものだとハッキリ書いている。現地の指揮官がそのような妥協をするようでは軍の統制がとれなくなる。
ここからうかがえるのは、アメリカの新聞が正確な報道をしていなかったことだ。一方、前橋地検は18日午後10時35分、ジラードを傷害致死容疑で前橋地裁に起訴した。
19日付朝日朝刊は「米の動きに異例の断」の見出しで「起訴は今週末になる見通しだったが、米国防総省の言明に、裁判権問題がまた蒸し返されることを恐れ、既に日米合同委員会で決まった『日本側で裁判する方針』を維持するためとみられている」と書いた。
「日本の裁判認めるな」高まる米国の反日感情
アメリカの世論も高まっていた。5月21日付上毛朝刊は1面トップに共同電で「米に沸き起る反日感情 国務省の指令を非難」の見出しを立てた。
相馬ケ原事件の「ジラルド」三等特技兵裁判権問題をめぐって、このところ、米国内に反日感情が急速に沸き起こっており、米議会内でもこの事件を徹底的に追及する動きさえある。米国内の各地の新聞も「ジラルド」事件を極めて重視し、この事件について日本から送られた米系通信社の報道を連日のように大々的に掲載しており、一部の新聞は「日本の婦人が殺害されたのは遺憾だ。
しかし、この婦人は立ち入り禁止区内にいたばかりでなく、米軍の物品を盗んでいたので、公務執行中の同特技兵はやむなくその責任を果たしたにすぎない。この事件に関する限り、日本側には裁判権はあり得ない」との社説を載せている。
各紙にはその後もアメリカの反応が大きく掲載された。「“日本の裁判認めるな” 米の世論強硬」(5月21日付朝日夕刊自社特派員電)、「抗議、全米に広がる」(同、読売自社特派員電)。同じ日付の毎日は「ジラード事件・米議会も強硬 “日本の裁判権”が不愉快」としたが、もう1本「岸訪米にも響く?」の脇見出しが目立つ。
なお、この毎日の記事が、それまで各紙が表記していた「相馬ケ原事件」から「ジラード事件」に変わった最初と思われる。


