ボコボコにされた被害者の写真を見てショックを受けた人も
――選任手続きのときの話でしょうか。
【N】はい。これについては無理と回答した人は個別に呼ばれて面接しました。「大丈夫だと思う」と答えた私たちは、5人ずつくらいのグループで裁判官、検察官、弁護人の方々の前で面接をしました。私が「大丈夫だと思います」と述べたら弁護人から、「思います」ではなくはっきり答えてほしいと言われました。それ以上明言もできないで黙ってしまったのですが、そのまま手続きは進みました。
のちに裁判員になってからのことで、解剖写真については明日見せます、と予告してくれたので心の準備もできたのですが、予告なしにボコボコにされた被害者の写真や、その後の車のなかの遺体の写真が見せられたときの方がショックが大きく、3日間夜も眠れなかったという裁判員もいました。ただその方は最後まで裁判員でいましたね。私はそこまでのショックはありませんでした。
母親から「殺人事件に関わるのはやめて」と言われたが…
――あなた自身は選任に関して、どのように考えておられたのでしょうか。
【N】たくさんの候補者がいたので、まず私が選ばれることはないだろうと気楽に構えていましたが、私をふくめた裁判員が6人、補充裁判員が6人選任されました。当日に辞退した人が多かったとあとで知りました。
高齢の母親からは、殺人事件に関わるのはやめてほしい、でも断ることができないのならこれを身につけておくように、とお清めの塩とお守りを持たされました。選任手続きのときにアンケートがあったのですが、「選任されたらやってみますか」という問いには選ばれないだろうと思い、「次回選ばれたらやってもいいです」と回答したくらいです。選ばれたので慌ててその日の仕事をキャンセルする連絡をして、大変でした。
――裁判員制度の知識のほどはいかがでしたか。
【N】「裁判員は20歳以上の有権者から選任される」(現在は18歳以上)という程度の知識しかありませんでした。書面と一緒に送られてきたパンフレットも読みましたが、専門用語が多く、すべてを理解することはむずかしかったです。